AIロボットが描いた肖像画、1億6000万円で落札 予想大幅に上回る
ゼロから創造するクリエイティブ力が劣っていると言われている人工知能(AI)。ところが、このAIを搭載した人型ロボットアーティストが写真からイメージを得て描いた絵画作品が、オークションに初めてかけられ、高額で落札された。
◆アート市場に新たな歴史幕開け
オークションにかけられた、AIを使った人型ロボットによる初作品「AIゴッド アラン・チューリングの肖像」が108万4800ドル(約1億6700万円)で売却された。
ニューヨークで販売を担当したサザビーズによれば、販売価格はオークション前の予想価格である「12万ドルから18万ドル」をはるかに上回り、この作品は27件の入札を集めた後、非公開の買い手に渡った。
サザビーズは、この歴史的な落札について、「人型ロボットによる作品のオークションにおける基準を確立し、世界のアート市場に新たなフロンティアを打ち立てた」と述べ、「オークションで作品が落札された最初の人型ロボットアーティスト」になると付け加えた(BBC)。
サザビーズのデジタルアート部門責任者であるマイケル・ブハンナ氏は、「アートとテクノロジーの組み合わせは、特に若い世代のコレクターの間で関心を集めている」と語る(デクリプト)。
◆インスピレーションはピカソの「ゲルニカ」
イギリスのギャラリスト、エイダン・メラー氏が発案した人型ロボットアーティストの「アイダ・ロボット」によって制作された「AIゴッド アラン・チューリングの肖像」は、現代のコンピューティングと人工知能の基礎を築いた先駆的な数学者、アラン・チューリングへのオマージュになる(サザビーズ)。
今年初めにスイス・ジュネーブで開催されたAIに関する国連グローバル・サミットで展示された5枚のパネルからなるポリプティク(多翼祭壇画)の一部だ。アイダは2019年初めに制作されて以来、作品は世界中の展覧会で展示されている。
作品は10月31日、サザビーズのデジタル・アート・セールの一環としてオークションにかけられた。収益金はアイダの継続的な開発に充てられる。
アイダの作品、特に「AI ゴッド」のテーマは権威や支配、人間の主体性のもろさに疑問を投げかけた20世紀の影響力のある芸術家や思想家から多大な影響を受けている。彼女のアートは、パブロ・ピカソの「ゲルニカ」やドリス・サルセドの「権力への抵抗」からインスピレーションを得ており、歪んだ美学を通して人間の苦悩を描いている。
◆作品制作に約6時間
アイダは、目のカメラとロボットアームを使って絵を描く。彼女は通常、黒くて短いかつらをかぶり、デニムのオーバーオールを着ていることが多い。
また、作品制作に入る前に、描きたいものについてクリエイターと話し合う。メラー氏は「AIの永続性についてアイダと話し合った結果、彼女はアラン・チューリングをAIの歴史における重要人物として選び描きたいと考えたのです」と声明で述べた(CNN、11/8)。
アイダは、絵のスタイル、内容、トーン、テクスチャーについての質問に答えた後、目のカメラを使ってチューリングの写真を見て、彼の下絵を描いた。その後、チューリングの顔の一部を15枚ずつ描いたが、それぞれの絵はアルゴリズムが写真をどう解釈するかによって異なるものとなった。
絵の制作にはそれぞれ6~8時間かかった。
アイダは腕の長さによって11.7×16.5インチ(29.7×41.9センチ)の小さなキャンバスにしか描けないため、最終的な画像は3Dプリンターを使って大きなキャンバスにプリントされた(CNN)。
◆作品の価値は 自らの言葉で説明
サザビーズは、「チューリングを描いたアイダの作品は、彼の遺産を称えるだけでなく、テクノロジーが人間のアイデンティティ、創造性、主体性に与える、より広範で変革的な影響についても探求しており、彼女の作品はアートとAIの両分野における重要なマイルストーンとなっている」とする。
オックスフォード大学の科学者チームとともにアイダを制作したメラー氏は、この売却が、芸術におけるテクノロジーの役割について興味深い解説を提供するきっかけになると考える(スミソニアン)。
メラー氏は「アートは、テクノロジーのために起きている社会の驚くべき変化を議論する手段なのです」と語る(CBSニュース)。
高度なAI言語モデルを使って会話するアイダは、自身の作品について「私の作品の主要な価値は、新たなテクノロジーについて対話を生む触媒になる可能性があることなのです。この作品は、AIとコンピューティングの進歩の倫理的、社会的な意味合いについて考えると同時に、これらの神のような性質について考察するよう見る人をいざなうのです」と述べ、「アラン・チューリングはこの可能性を認識し、この未来に向かって疾走する私たちを見つめているのです」と語る(デクリプト)。