AIに「嘘電話」をかけさせるとどうなるのか…ポッドキャスト番組「シェル・ゲーム」が話題
アメリカ人ジャーナリストのエヴァン・ラトリフ(Evan Ratliff)が、独自のポッドキャストシリーズ『シェル・ゲーム(Shell Game)』をロンチ。人工知能(AI)の欺きをテーマにした6回にわたるシリーズが話題を呼んだ。
◆ポッドキャスト番組『シェル・ゲーム』
今年の7月から8月にかけて配信された『シェル・ゲーム』は、アメリカのジャーナリストで起業家でもあるラトリフが自身のプロジェクトとして立ち上げた、メールマガジン連動型のポッドキャスト番組だ。シェル・ゲームとは、直訳すると殻遊びという意味だが、逆さまにした3つコップやナッツ殻の下に豆などの小さなモノを隠して、それを適当に移動させ、相手に隠し場所を当てさせるというゲームから転じ、欺瞞的な行動や策略を意味する言葉である。シェル・ゲームのテーマは、「それっぽく見えるが、実際はそれではないモノ」と説明されている。
ポッドキャストの第1シーズンにおいて、その「モノ」はラトリフの声だ。彼はテクノロジーを活用して自分の声のクローンを生成し、チャットGPTを活用したAI音声チャットに接続させた。そして、その仕組みを使って、詐欺電話の応答から、セラピストとの電話セッション、ジャーナリストとしての電話インタビュー、友人や家族への電話まで、さまざまな「嘘の電話」をかけ続けた。そしてその音声を記録し、AI音声のパフォーマンスや相手の反応を記録、分析し、実際の電話のやり取りの一部を入れ込みながら解説を付け加え、それをポッドキャスト番組として配信した。
◆ラトリフの実験とその反響
ラトリフは調査報道記者としての経験が豊富で、ワイヤード、ニューヨーカー、ブルームバーグ・ビジネスウィーク、ビジネス・インサイダー、ナショナル・ジオグラフィックといった数々の著名なメディアで、長文記事を執筆してきた人物。2019年には、元プログラマーから犯罪組織のボスに転じ、アメリカ当局に逮捕され、受刑中の大犯罪者ポール・ル・ルー(Paul Le Roux)の半生を紐解いた『マスターマインド』を出版し、大きな話題を呼んだ。
詐欺や犯罪調査報道のプロであるラトリフがロンチした『シェル・ゲーム』は各メディアからも高く評価された。ニューヨーク・マガジンのウェブメディア『ヴァルチャー』は今年の9月に配信した『2024年のベスト・ポッドキャスト』という記事で取り上げ、「シリーズは少しバランスに欠ける部分もあるが、その根底にあるラトリフの偉業という力強さには、確かな説得力がある。自らの人間性を(AI から)守るために抗う人間の声を聞くのは面白い」と評価した。また、シェル・ゲームのエピソードは、ラジオラボ(Radiolab)などのほかのポッドキャスト番組でも配信され、セマフォーやポッドキャスト・デリバリーなどの他メディアでも紹介された。
ラトリフの実験では、電話の相手は多くの場合、何らかの異変に気づくか、AIであることを確信し、怒り、戸惑い、笑い、そして時には悲しみといった感情をあらわにした。筆者の全エピソードを聞いたが、テクノロジーのさらなる進化によって、ラトリフの「実験」が近い将来私たちの日常になりうるという、期待と不気味さが感じられた。英語のポッドキャストに慣れている人には、ぜひおすすめしたい番組だ。