競争激化する対話型AI チャットGPTのオープンAIが大規模カンファレンス初開催

Barbara Ortutay / AP Photo

 わずか1年足らずの間に急成長をみせたAI(人工知能)チャットボット「ChatGPT(チャットGPT)」を開発したオープンAIは11月6日、同社が展望するAI技術の未来の姿を披露し、さまざまなタスクにカスタマイズできるチャットボットの新ラインナップ製品をローンチした。

 オープンAIのサム・アルトマンCEOは拍手喝采を送る900人超のソフトウェア開発者らを前に、「いずれは必要なことをコンピュータに頼めばあらゆるタスクをこなしてもらえる時代が来るだろう」と述べた。オープンAIが初めて開催したこの開発者会議には、数十年前にアップルが始め、技術開発に貢献したシリコンバレーのカンファレンスの伝統が取り入れられた。

 同社が本社を置くサンフランシスコにあるホンダの自動車販売店跡地で行われたイベントで、最新AIモデル「GPT-4ターボ」が公開された。2021年以降の質問には答えられなかった旧版と比べて性能が向上し、今年4月までの世界情勢や文化イベントに関する情報も検索できるようになった。

 さらに、画像分析ができるAIモデル「GPT-4V」の最新版も発表された。このツールを使えば、目が見えない人や弱視の人に画像内容を伝えられることを9月の研究論文で公表していた。

 ChatGPTは1億人超の週間アクティブユーザーと200万人の開発者を抱える。アルトマン氏は「すべて口コミで広がっている」と語り、製品が複数あることを強調しながら、特定のタスク用にカスタマイズされたChatGPTを作ることができる「GPTs」という新しい製品ラインナップも発表した。

 ペンシルバニア大学でコンピューターサイエンスを研究しているアリッサ・ホワン氏はGPTビジョンのツールをいち早く目にしたところだが、「どれほど複雑な画像であっても、さまざまな種類の素材を記述する機能はとても優れている。ただ、改善の余地はある」と話す。

 限界を試す目的でホワン氏はステーキの画像にチキンヌードルスープのキャプションを付け、チャットボットを混乱させてみた。すると、チキンヌードルスープに関係する画像であるという説明が出力された。

 これを目にした同氏は「敵対的な攻撃につながる可能性がある。画像に攻撃的な文章やそれに類するものを入力したら、意に沿わない結果が得られるだろう」と指摘する。

 オープンAIが同氏のような研究者に早期アクセス権を与えているのは、一般向けリリース前に最新ツールの欠陥を見つけてもらうためでもある。アルトマン氏は6日のイベントで、安全上のリスクに対処する時間を確保するために「段階的に繰り返して展開する」アプローチを採用していると説明した。

 オープンAIが開発者向けカンファレンス「DevDay」でデビューするまでの道のりは、一風変わったものだった。2015年に非営利の研究機関として設立された同社はちょうど1年前、チャットボットをリリースして世界的に有名になり、興奮と恐怖を呼び起こし、AIの急速な進歩のための国際的な安全対策の推進を促した。

 カンファレンスが開催された前の週には、バイデン大統領がAI技術に関するアメリカ初の基準(ガードレール)を定めた大統領令に署名した。

 国防生産法が適用されるこの大統領令は、オープンAIのほか同社を財政的に支援するマイクロソフト、さらにはグーグルやメタといった競合他社とみられるAI開発者に対し、重大な安全リスクをもたらす可能性のある「高レベルの性能」を持つAIシステムの構築に関する情報を、政府と共有するよう求めている。主要なAI開発企業が今年初めに政府と合意した自主規制を拠りどころとした命令だ。

 文字や音声のプロンプトに対して文章や斬新な画像、音などのメディアを生成できる最新の生成AIツールの経済効果については大きな期待が寄せられている。

 マイクロソフトのサティア・ナデラCEOはアルトマン氏を壇上に呼び寄せ、会場から歓声が上がるなか「我々は(オープンAIのチームを)愛している」と語った。

 ナデラ氏はマイクロソフトの役割について、オープンAIがさらに高度なモデルを構築するのに必要な計算力を提供するために自社のデータセンターを利用するビジネスパートナーであることを強調した。

 アルトマン氏も「両社の提携関係はテック業界で最高の組み合わせだと思う。協力してAGI(汎用人工知能)を構築できるのを楽しみにしている」と語った。AGIとは、多様なタスクを実行するのに人間と同等か人間以上のパフォーマンスを発揮できる知能のことで、同氏はその構築を目標にしている。

 マイクロソフトの「ビング」など複数の商用チャットボットはオープンAIのテクノロジーをベースとして構築されているのに対し、グーグルの「バード」や、オープンAIの元社員が立ち上げたサンフランシスコを本拠とするスタートアップ企業、アンスロピックの「クロード」など競合も増えている。オープンAIの競合にはほかにも、システムのコードなどを無料公開する、いわゆるオープンソースモデルの開発者がいる。

 ChatGPTの最新のライバルは「グロック」である。このAIボットは億万長者のテスラCEO、イーロン・マスク氏がカンファレンス直前の週末に自身のSNSプラットフォームX(旧ツイッター)で発表したものだ。オープンAIの設立には関与したものの同社との関係を断ったマスク氏は、AI開発の領域に自らの足跡を残すために新会社「xAI」を設立していた。

 現在のところグロックは限定されたユーザーしか利用できないものの、攻撃的な回答をしないようにする措置が取られているためほかのチャットボットが回答を拒否するような「辛辣な質問」にも答えられるとしている。

 カンファレンス直前というグロックのリリース時期について記者からコメントを求められたアルトマン氏は、「イーロンのやりそうなことだ」と一笑に付した。

 リサーチ企業ガートナーのアナリスト、アルン・チャンドラセカラン氏によると、オープンAIが6日のカンファレンスで発表した内容の多くは、ChatGPTのようなテクノロジーを自社業務に統合しようとする企業の関心事に応えるものだという。

 社内のデータソースにアクセスするためにAIモデルをカスタマイズできるようにすることと同様に、安価なAI製品を手に入れることは「明らかに難しい課題だった」とも述べている。同氏によると企業からみたもう一つの魅力は「著作権保護」で、これはインターネットに出回っている大量の著作物や画像を使ってオープンAIのモデルが学習する手法に関する著作権訴訟からユーザーを保護するため、発生した費用をオープンAIが支払うことを約束した制度である。

 金融大手ゴールドマン・サックスは先月、生成AIの利用で労働生産性が向上し、世界のGDP(国内総生産)を長期的に10~15%押し上げる可能性があるとする予測を発表した。

 アルトマン氏も、職場や家庭でさまざまなタスクの手助けをするAIエージェントの未来について「賢明で、個人に寄り添い、カスタマイズが可能で、ユーザーのために多くのことをしてくれるAIが必要とされていることは承知している」と話している。

By BARBARA ORTUTAY and MATT O’BRIEN AP Technology Writers
Translated by Conyac

Text by AP