イーロン・マスクらのAI開発停止要求、課題解決になるのか

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◆ChatGPTが広めたAIへの期待と不安
 昨年11月、AI研究所のオープンAIが手がける「ChatGPT」がリリースされて以来、AIの存在感が急速に増しつつあるとともに、AIの開発競争も加速している。3月には、バージョンアップした「GPT-4」がリリース。マイクロソフトは、オープンAIに対して100億ドルの資金を投入し、自社の検索エンジンである「ビング」をはじめとするアプリケーションにAI技術を採用した。一方、グーグルもChatGPTの競合となる「バード」というAIを発表した。

 AI開発一時停止の公開書簡は波紋を呼んでいるものの、この公開書簡のイニシアチブをまとめ上げた主体であるシンクタンク「フューチャー・オブ・ライフ・インスティテュート(The Future of Life Institute)」に対する批判の声や、偽の署名が存在しているという指摘もある。また、終末論的な論調に対しての批判もある。公開書簡では、AI研究機関が足並みを揃えてプロトコルを開発すべき、政府が介入してAI開発のモラトリアム(一時停止期間)を強制すべきといったような要求があるが、現実的ではないとの見方もある。一方で、AIのさまざまなリスクを回避するには、稼働を停止すべきだという研究者の意見もある。

 AI開発に関して、関係者が足並みを揃えること、さらに、人類全体というステークホルダー全員が未来形成に参画するというのは理想でしかない。AI技術に対し、是非の判断を下して思考停止になるのではなく、期待と不安を持ちつつ議論を続けていく必要がありそうだ。

Text by MAKI NAKATA