飲食宅配ロボットの普及が加速 車道走行タイプも試験中

Carlos Osorio / AP Photo

 ロボットがフードデリバリーを担うのは、もはやSFの話ではない。しかし、近所でそれを目にする機会はまだなかなかないかもしれない。

 アメリカやイギリスでは、大学の構内や一部都市の歩道を、膝くらいの高さでLサイズのピザを4枚ほど持てるような小さめのロボットが何百台も走行している。

 コロナウイルスが流行する前は、限られた台数のロボットの試運転を進めている状態だったが、ロボット製造会社らによるとパンデミックを受けて労働力が不足し、非対面型のデリバリーサービスが好まれるようになったことからロボットが続々と配備されるようになった。

 最近デリバリーの実績が200万件を記録したスターシップ・テクノロジーズのCEOを務めるアラステア・ウェストガース氏は「ロボット利用の需要は限界を突破しています。需要は常にありましたが、パンデミックの影響でそれが表に出たのだと思います」と話す。

 スターシップは2019年にちょうど250台のロボットを追加し、現在は1000台を超えるロボットを用意している。近日中に数百台を追加配備する予定だ。同社のロボットはアメリカ国内の20ヶ所の大学構内で料理をデリバリーしており、近々新たに25校でも導入される見込みとなっている。

 イングランドのミルトン・キーンズ、カリフォルニア州のモデスト、そしてスターシップの地元であるエストニアのタリンでは、歩道でも走行を行っている。

 ロボットのデザインは多岐にわたり、たとえば四輪のロボットもあれば六輪のものもある。しかし一般的には歩道を走行し、さらに自律的に道を横断できるように、カメラ、センサー、GPSを搭載しており、レーザースキャナーを使用するものもある。走行速度は時速約5マイルだ。

 オペレーターが遠隔地から同時に複数のロボットを監視するが、急ブレーキをかけたり、障害物を避けるためにハンドルを操作したりする必要はめったにないそうだ。ロボットが目的地に到着した後は利用客が自分の電話に暗証番号を入力し、フタを空けて料理を回収する。

 ロボットには難点もあり、そのために現時点では有用性に限界がある。たとえばロボットは電気で動くので、定期的に充電し直す必要がある。走行速度も遅く、大抵のものは事前にマップした狭い範囲でしか動けない。

 また、柔軟性にも難がある。たとえば、ドアの外に料理を置いておくよう指示することはできない。ニューヨークや北京、サンフランシスコなど、歩道の通行量が多い都市では歓迎されないだろう。

 しかし、コンサルティング会社ガートナーのアナリスト、ビル・レイ氏は、企業や大学の構内、または幅の広い歩道が整備されている比較的新しいコミュニティであれば、ロボットは大いに理にかなっているとした上で、「配備が可能なところでは、宅配ロボットが急速に広まるでしょう」と話す。

 同氏によると、ときどき子供たちがロボットを取り囲んでいたずらをする事例を除けば、ロボットに問題があったとする報告は少ない。スターシップは2019年、車椅子の利用者からロボットが身障者用スロープへの道をふさいでいるという苦情を受け、少しの間だけピッツバーグ大学におけるロボットの運行を停止した。大学によると、スターシップはこの問題に対処した後、デリバリーを再開している。

 オハイオ州のボーリング・グリーン州立大学に在学する3年生のパトリック・シェック氏は週に3~4回、教室を出るタイミングでスターシップのロボットから料理を受け取っている。同氏によると、ロボットは昼食をとりたい時間ぴったりに来てくれるという。大学とスターシップは、ロボットによるデリバリー1件につき1.99ドルとサービス料を徴収している。

 ロサンゼルスとコロンビアのメデジンに本社を置くライバル企業のキウイボットは、現在400台のロボットを用意しており、大学構内やマイアミの繁華街でデリバリーを行っている。

 デリバリー業者も市場に参入している。グラブハブは最近、ロシアのロボットメーカー、ヤンデックスと提携し、オハイオ州立大学の構内に50台のロボットを配備した。同社はこのサービスについて、いまのところ大学以外での展開は予定していないとしているが、近日中に配備先の大学を増やす見込みだ。

 データコンサルティング会社のエヌピーディーによると、アメリカでは6月までの1年間で、デリバリーの注文件数が66%の急増を記録した。利用客はその便利さに慣れてしまっているため、パンデミックが収まった後にも需要は高い水準を保つ可能性がある。

 ミシガン州アナーバーのレストラン、ミス・キムのシェフでマネージング・パートナーも務めるジー・ヘー・キム氏は昨年、店舗を閉めていた間に宅配ロボットを多く活用した。キム氏はパンデミックが始まる少し前に、地元のロボット企業、リフラクション・エーアイとパートナーシップを締結していた。

 キム氏によると、ドアダッシュのような外部のデリバリー業者は料金がかなり高いうえ、1回の配送で複数の注文をまとめて取り扱うため、到着する頃には料理が冷えていることもある。ロボットの場合は、1回につき1件の注文しか受け付けない。

 ロボットは利用客を楽しませることもでき、ロボットと交流する動画を投稿する人も多い。同氏は「愛らしくて斬新で、人と対面する必要もありませんでした。だからとても快適でした」と話す。店舗が再オープンして以降、デリバリーの需要は減少したが、現在も1日あたりおよそ10件のデリバリーをロボットに任せている。

 キム氏はパンデミックの期間中にもどうにかしてスタッフを引き留めたが、ほかのレストランは従業員の確保に苦戦している。最近実施された調査では、全米レストラン協会の質問に対し、アメリカのレストラン経営者の75%が従業員の採用と維持が最大の課題だと回答した。同協会に所属する多くのレストランが、宅配ロボットで人材不足を補うことを検討している。

 ドミノ・ピザのシニア・バイス・プレジデント兼チーフ・デジタル・オフィサーを務めるデニス・マロニー氏は、「いますぐ十分な数の宅配ドライバーを揃えられる店舗など、国内にはありません」と言う。

 ドミノ・ピザはカリフォルニア州のスタートアップ企業で、最高時速40キロで歩道ではなく車道を走行する高さ2メートル弱の自動運転車両を展開するニューロと提携している。ニューロはテキサス州のヒューストンやアリゾナ州のフェニックス、カリフォルニア州のマウンテンビューで、食料雑貨と料理のデリバリーサービスを試験運用中だ。

 マロニー氏はロボットがより多くのデリバリーを担うようになるだろうと予想しており、「実現するかしないかという話ではなく、いつ実現するのかが問題」と言う。ドミノ・ピザのような企業は最終的に、場所に合わせてロボットとドライバーを使い分けることになるだろう。たとえば歩道用のロボットは軍事基地で役立つだろうし、郊外の場合はニューロが理想的だ。高速道路の走行は、今後も人間の従業員に任せることになる見込みだ。

 マロニー氏によると、ニューロを使ったデリバリーは人間のドライバーを雇うよりも費用がかかるが、テクノロジーがより高度になり洗練されればコストが下がるはずだという。

 比較的安価な歩道走行用のロボットの場合は、コストが5000ドル以下と推定されており、人間の配送料を簡単に下回る。求人サイトの『インディード』によると、グラブハブのドライバーの年収は4万7650ドルだ。

 しかし、ロボットが必ずしもデリバリー業界の雇用喪失を招くとは限らない。雇用創出を促進するケースもあるのだ。オハイオ州のボーリング・グリーン州立大学では、スターシップのロボットを導入するまで食堂からのデリバリーは受け付けていなかった。しかし同大学で食堂の広報を担当するジョン・ザックリッチ氏によると、ロボット導入後にキッチンとロボットの間の受け渡しが必要になったため、大学は30人超を雇用した。

 コンサルティング会社フォレスターのテクノロジーアナリスト、ブレンダン・ウィッチャー氏によると、「宇宙家族ジェットソンのような宅配ロボットが実現するのでは」と期待を膨らませることは簡単である。しかし最終的には、ロボットが何らかの方法で優位性を生み出せることを証明しなければならないだろう。

 同氏は「これがほかの何かを生む可能性はあります。しかし、ロボットを検討している企業は、いまこの機会にこそロボットの試運転を行い、研究し、独自の進化を生むべきです」と話す。
 
By DEE-ANN DURBIN AP Business Writer
Translated by t.sato via Conyac

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