奪われたアフリカのIPアドレス 管理組織が奪還の動きも、中国ブローカーが反撃

Brian Inganga / AP Photo

 金やダイアモンド、さらには人間まで、部外者は長きにわたりアフリカの豊富な資源から利益を享受してきた。デジタル資源についても同様であることが示されている。

 アフリカに割り当てられている数百万個ものインターネット・アドレスが、何らかの不正を目的に狙われている。アフリカ地域でアドレスの割り当てを行う非営利組織の上級職であった元従業員が関わった陰謀はその一例だ。アフリカにおけるインターネットの発展に貢献するどころか、スパム業者や詐欺師の利得のために多くのアドレスが利用され、また、ポルノやギャンブルを求める中国人利用者の欲求を満たしている。

 非営利組織のAFRINICでは新たな指導体制のもと、失われたアドレスを取り戻す取り組みが進められている。しかし、資金力のある中国人実業家からの法的な異議申し立てを受け、組織の存在は著しく脅かされている。

 実業家のルー・ヘン氏は裁定取引を専門とする投資家であり、香港に拠点を置く。係争中という状況下、2013年から2016年までにアフリカのために確保されたアドレス620万個を取得した。これはアフリカ全土における総数の約5%を占め、ケニアが所有する数よりも多い。

 時価およそ1億5000万ドル相当のアドレスがAFRINICによって取り消されると、ルー氏は反撃に出た。2021年7月末、ルー氏は弁護士を通じて、AFRINICの銀行口座を凍結するよう同組織本部があるモーリシャスの裁判官を説き伏せた。さらに、経営する会社に対するAFRINICと新CEOからの名誉棄損を訴え、8000万ドルの損害賠償請求を申し立てた。

 これを受け、世界中のネットコミュニティに衝撃が走った。これまで、インターネットは発展途上社会での技術的な骨格をなすものであると考えられてきた。インターネットに接続するための、完全に数字で構成されるアドレスシステムが揺らぎかねないと憂慮する声もあがっている。

 国際的な非営利組織、パケット・クリアリング・ハウスの事務局長であるビル・ウッドコック氏は、「AFRINICの管轄地域ではとくに、インターネットガバナンスの根幹ともいえる存在を揺るがすような攻撃を直に与え、閉鎖に追い込んだり抹消しようとしたりする人がいるなんて、実際に考えたこともありませんでした」と話す。同組織はアフリカにおけるインターネットの構築を支援してきた。

 ルー氏はAP通信に対し、自分は真っ当な実業家であり、アフリカのアドレス・ブロックを入手するにあたり、規則を破ったことはないと話す。さらに、5つの地域レジストリには、IPアドレスの使用場所を決める権利はないとし、インターネット管理団体からの総意を一蹴した。

 同氏は、「インターネットを供給することがAFRINICの役割であり、アフリカのために働くことは求められていません。つまりは記帳係にすぎないのです」と述べている。

 AFRINICはルー氏のアドレス・ブロックを無効にし、アフリカにとって貴重なアドレス空間を取り戻そうとしている。生活水準を引き上げ、健康や教育を向上させるためにインターネット資源を活用するという点において、アフリカはほかの地域に後れを取っている。アフリカに割り当てられた第1世代IPアドレスは、全世界のわずか3%でしかないのだ。

 さらに悪いことに、数百万個ものAFRINICのIPアドレスを窃盗した容疑にかけられているアーネスト・ビャルハンガ氏は、ナンバー2として同組織に在籍したのち、2019年12月に解雇されている。単独での犯行であったかについては明確でない。

 同レジストリの新CEOであるエディ・カイフィラ氏は、モーリシャス警察に対して刑事告訴したと発表していた。管理体制を一新し、実態のわからないIPアドレス・ブロックを回収する試みを始めたと話す。

 数十億人が日々インターネットを使用する一方で、内部の動きについて知られていることはほとんどなく、監視の対象になることはまれである。5地域にある完全に自律的な国際組織は非営利の公的信託として運営されており、インターネットを利用するための、限られた資源である第1世代IPアドレスの在庫の所有者や運営者を決定する。AFRINICは5つあるレジストリのうちでもっとも新しく、2003年に設立された。

 IPv4として知られる第1世代IPアドレスは、わずか10年足らず前に、先進国が保有していた37億個の在庫が完全に枯渇した。このIPアドレスは現在、オークションにおいて1個あたり20ドルから30ドルで取引されている。

 AFRINICでの詐欺疑惑が公になったことで、現在の危機的状況は深刻さを増した。カリフォルニアを拠点にインターネット研究を行うフリーランス、ロン・ギルメット氏は、5000万ドル超に相当する400万個ものIPアドレスがビャルハンガ氏とおそらく共犯者によって不正流用されていることを突き止め、南アフリカの技術ニュースサイト『マイブロードバンド』の記者、ヤン・バーミューレン氏と共同で報じた。ビャルハンガ氏は出身国のウガンダに滞在していると思われるが特定できておらず、コメントは得られていない。

 2003年から2015年にかけてAFRINICのCEOを務めたアディエル・アクプロガン氏は、「ビャルハンガ氏によるアドレスの不正流用疑惑について当時は認識していなかった」とAP通信に話している。

 トーゴ共和国出身の同氏は現在、カリフォルニアを本拠にインターネットのドメイン名とIPアドレスを管理する組織、ICANNで技術的な業務の統括責任者を務める。同組織では、ネットワークアドレスとドメイン名を運用する世界中の企業を監視している。アクプロガン氏は、「当時のAFRINICの管理体制をよく知る人は、把握しているのに放置できるようなことではないと十分に理解しています」と話す。

 実態のわからないまま所有権をめぐって係争中にあるアドレスは67万5000個を超える。イスラエル人実業家によって管理されている一部のアドレスについては、AFRINICに対して返還を求める訴訟が起こされている。

 係争中のアドレスの多くは、いまでもwww.mzcmxx.comといった意味のわからないURLアドレスでウェブサイトをホストしており、その上、このようなウェブサイトには、中国人利用者向けのギャンブルやポルノが含まれている。AP通信は、ルー氏がAFRINICから入手したIPアドレスが、同じような複数のウェブサイトに使用されていることを発見した。これらのウェブサイトは中国政府によって禁じられているにもかかわらず、アクセスが可能である。

 ルー氏によれば、同氏のIPアドレスを使用しているウェブサイトのなかでも、この類のウェブサイトは極めて少数であり、幼児ポルノやテロに関連する内容など、違法情報の投稿を禁じる厳しいルールを会社として定めているという。その上で、アドレスのリース契約者によって制作された何百万ものウェブサイトを積極的に監視しているわけではないが、訴訟可能な違法行為はすべて、ただちに法執行機関へ報告しているとしている。

By ALAN SUDERMAN, FRANK BAJAK and RODNEY MUHUMUZA Associated Press
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP