SNSの弊害から子供をいかに守るのか FB内部告発で高まる安全性への懸念
元フェイスブック幹部のフランシス・ホーゲン氏は内部告発者として、10代の若者がインスタグラムを利用することの弊害についてフェイスブックがまとめた調査結果を明らかにした。それは多くの親にとって、インスタグラムに対する懸念を強めるものとなった。
同氏は5日の上院での証言のなかで、「子供が10代のときに確立した行動パターンは、その後の人生にもついてまわる。インスタグラムでいじめられている子供の場合、帰宅してからもいじめが続く。寝る時も収まらず、眠りにつく直前に誰かが自分にひどいことをしているのが目に入る。彼らは、友達や気にかけている人が自分にひどいことをすることを知っているのだ」と述べている。
では、子供を守るために私たちには何ができるだろうか? 専門家によると、子供たちが自分のペースで友達とおしゃべりできるようにしながらもSNS上の危険を避けるために親が手助けできることとして、オープンなコミュニケーション、年齢制限、必要に応じた行動の監視がある。
◆17歳は新たな年齢制限のタイミングか?
インスタグラムなどのSNSアプリを利用できるのは13歳以上になっている理由をご存知だろうか? それは、2000年にアメリカで施行された「児童オンラインプライバシー保護法」が関係している。現在の10代の子供たちが生まれる前(フェイスブックの最高経営責任者であるマーク・ザッカーバーグ氏がまだティーンエージャーだったころ)の話だ。
その法律の目的は、ウェブサイトやオンラインのサービス事業者に明確なプライバシー指針を開示し、子供の個人情報を収集する前に保護者の同意を得ることなどを義務付けることにより、子供のネット上でのプライバシーを保護することだった。それによりSNS事業者は、一般的に13歳未満の子供がサービスにサインアップするのを禁止するようになった。しかしよく知られているように、親の承認の有無にかかわらず、彼らはサインアップしてしまっている。
時は移り変わり、子供たちのネットでの活動で懸念とされるのはオンライン上のプライバシーだけではなくなった。いじめや嫌がらせのほか、フェイスブックの内部調査が明らかにしたように摂食障害、自殺願望、そのほかの症状を悪化させる危険性もある。
ホーゲン氏は証言のなかで、SNS利用の年齢制限を16歳、さらには18歳に引き上げるよう提案した。一部の保護者、教育者、技術専門家のなかには、子供が一定の年齢に達するまで携帯電話やSNSサービスへのアクセスを認めないという動きもあった。アメリカには、子供が中学2年生になるまでスマートフォンを与えないという署名を親がする誓約書「Wait Until 8th(8年生まで待とう)」がある。だがSNS事業者も政府も、年齢制限を引き上げる具体的な行動を起こさなかった。
NPOのコモンセンス・メディアでSNSを専門にしているクリスティーン・エルガースマ氏は、「必ずしも魔法の年齢があるわけではない」としつつも、「13歳は子供がSNSを利用するのに最適な年齢ではないだろう」と述べている。
それでも問題は複雑だ。アプリやオンラインサービスにサインアップする際、ユーザーの年齢を確実に認証できる方法はない。また、いまの10代の若者に人気のアプリは、もともと成人向けに作られたものである。事業者側は何年にもわたってさまざまな保護機能を追加してきたが、それは断片的な変更であり、サービスを根本的に見直すものではなかった。
エルガースマ氏は、「子供たちのことを考えて、デベロッパーはアプリを製作しなくてはならない」と話す。とはいえ、フェイスブックが各方面からの反発を受けて一時中止したプロジェクト、「インスタグラム・キッズ」が望ましいと言っているわけではない。同氏は、子供のことを第一に考えずにプロジェクトを始めた会社を信用することはできないと考える。
フェイスブックによると、摂食障害や自傷行為に関連した、よくあるハッシュタグを検索した人の精神的な健康面でのサポートなど、10代の若者の幸福度を向上させる多くの保護措置や機能を長年にわたって追加してきた。また、「いいね!」がついた回数を非表示にする実験も行ったという。フェイスブックのグローバル・ポリシー・マネジメント部門を率いるモニカ・ビカート氏は、「投稿したときに何人がそれを気に入ってくれたのか、他人が見てくれたのかを若者が心配する必要がなくなる」と述べている。だが社内の研究によると、いいね!の回数を非表示にしても若者の気分は良くならなかった。
◆たくさん会話をしよう
子供がネットにアクセスする年齢に達する前に、親は自身のSNSの投稿を子供と一緒に眺めつつ、その内容についてオープンに話し合ってほしいとエルガースマ氏は呼びかけている。友達の友達から写真を送ってほしいと頼まれたとき、子供はどのように対応したらよいか? また、怒りを覚える記事を読み、すぐ誰かとシェアしたいと思うときはどうすればよいか?
ある程度の年齢に達した子供には、興味と関心を持って接すること。エルガースマ氏は、「10代の子供の受け答えがはっきりせず、一言二言の返ししかない場合、時には友達が何をしているかと聞いてみたり、『インスタグラムで何をしているの?』といった直接的な質問ではなく、『このインフルエンサーがすごい人気と聞いたけど』などと話しかけたりしてみよう。それで子供があきれた表情をしたとしても、それは好機かもしれない」と語る。
子供がデジタル機器を使用する時間を減らすよう提唱している非営利団体、フェアプレイのディレクターであるジーン・ロジャース氏は、「子供が長時間画面をスクロールしていても、『消しなさい』と言うべきではない」と指摘する。同氏は、「その言い方は、携帯電話に子供たちの人生や世界のすべてが詰まっているということを尊重していません。携帯電話で何をしているのかと問いかけ、子供が話してくれそうな内容を確認するとよいでしょう」と話す。
エルガースマ氏は、「子供たちはおそらく、人々をSNSにつなぎ止めておくために企業が使用している巧妙なツールについて、親や教育者にオープンに見せながら話をしてくれるだろう」と語る。たとえば、SNSのアルゴリズム、ダークパターン、ドーパミンのフィードバックサイクルを題材としているネットフリックスのオリジナルドキュメンタリー映画『監視資本主義: デジタル社会がもたらす光と影』(原題:The Social Dilemma)などを観るとよいだろう。また、フェイスブックやティックトックがどのようにして収益を稼いでいるかについて子供たちと一緒に調べてみることだ。同氏は、「子供たちはそうした事柄を知るのが好きだし、やる気を与えることにもなる」と話す。
オハイオ州マウントバーノンに住むビッキー・ラクソネン氏(53)は、14歳の息子とよく会話をするように努めている。子供の携帯電話のパスコードを知っており、画面を見ている時間が長いときは少し目を休めるよう促すこともある。ただ、息子が学校で成績を維持し、サッカーなどの好きな活動をしていれば、たいていの場合はスマートフォンやインスタグラムなどのアプリに入っている彼のプライバシーを守るようにしている。
ラクソネン氏は、「あの子たちが何を見ているのかはよくわからない。それについての会話をしたり、話しかけたりすることの方が大事。問いかけるのを恐れてはいけない」と話す。
◆限度を設定する
ロジャース氏によると、子供のスマホ使用を制限するために端末を夜間預かっている家庭も多いという。時には子供たちがこっそり携帯電話を取り返そうとするかもしれないが、彼らには画面を見ない休憩時間が必要であるため、この対処法はうまくいくことが多い。 同氏は、「友達に、夜は携帯電話を使えないという言い訳をしなくてはいけない。親のせいにすることができる」と言う。
親の方でも携帯電話の使用を自制する必要があるかもしれない。子供が近くにいるときにスマートフォンを手にしていたら、何をしているのかを説明し、目的もなくインスタグラムなどのサイトを見ていないことを理解してもらうとよい。仕事関係のメールを確認している、夕食のレシピを調べている、公共料金の支払いをしているなどと伝えると、遊びで使っているのではないことをわかってもらえる。その上で、携帯電話を使う時間を伝えることだ。
◆親だけでは対処できない
SNSをめぐり、不公平な争いをしていることを親は理解しなくてはならない。サンノゼ州立大学の教育学教授で、データによる被害の問題を研究しているロクサナ・マラチ氏は、「インスタグラムのようなSNSは、中毒性を持たせるように設計されている」と指摘する。テック企業が我々のデータやアルゴリズムを使ってユーザーを有害コンテンツに向かわせる方法を規制する新法を作らなければ、親にできることは限られている。
同氏は、「企業は子供たちの幸福など気にかけておらず、視聴時間とクリック数の最大化にしか関心がない。それ以上でもそれ以下でもない」と話す。
By BARBARA ORTUTAY and AMANDA SEITZ Associated Press
Translated by Conyac