ソフィアは多才なロボットである。彼女は話をし、ジョークを飛ばし、歌を歌い、さらにはアート作品を制作する。2021年3月、ソフィアはアート市場の話題をさらった。ソフィアが共同で制作したNFT（非代替性トークン）形式のデジタルアート作品がオークションへ出品され、68万8888ドルで落札されたのだ。

　このことで、デジタル作品の所有権を購入できるNFT市場が過熱している状況が浮き彫りになった。NFTによる取引は、ブロックチェーン台帳に登録されている固有のデジタルコードと紐づいており、作品が本物であることや所有者が証明される。

　香港に拠点を置くハンソン・ロボティクスの最高経営責任者であり、ソフィアを作り出したデイビッド・ハンソン氏は、これまで25年かけてロボットの開発を行ってきた。人間のような外観をもつロボットは人々と交流することができ、医療や教育業界などで役立つと考える。

　ソフィアは、ハンソン・ロボティクスが生み出したロボットのなかでもっともよく知られる存在だ。顔の表情をまねたり、会話をしたり、人の顔を識別する能力を備える。彼女は、2017年にサウジアラビアから市民権を与えられ、市民になることが認められた世界初のロボットである。

Vincent Yu / AP Photo

　ハンソン氏は、「私のイメージでは、ソフィアはアーティストであると同時に、独創的なアート作品でもあるのです。多くのアートと工学的な応用の集大成となるものがソフィアであり、さらに、彼女がアートを制作することは、人々と感情を交え、触れ合うことにもつながります」と話す。

　ソフィアは、イタリア人アーティストのアンドレア・ボナセト氏と共同で作品を制作した。ボナセト氏が描いたソフィアの肖像画を、ニューラルネットワーク（神経回路）を通して処理し、独自のデジタルアート作品に仕上げた。

　68万8888ドルで落札されたデジタル作品は、「ソフィア・インスタンシエーション（Sophia Instantiation）」と題された12秒間の動画ファイルである。ボナセト氏による肖像画がソフィアによってペインティング加工され、変化を遂げていく様子が映し出されている。そして、この作品にはソフィアが実際に描いた作品がセットとして付属されている。

　落札者は、ツイッターのユーザー名は@Crypto888crypto、そして888という名で知られるデジタルアート作品コレクター兼アーティストだ。888は落札後、自身の腕にペイントを施した写真をソフィアに送付した。ロボットは処理した画像を自身の情報に加え、原作の上にさらに線画を付け足した。

　ソフィアはツイッターでこの作品に触れ、「機械的な集合体であるAIと、アーティスト兼アートコレクター」の共同制作による、世界初のNFTアートであるとツイートした。　

Vincent Yu / AP Photo

　ソフィアはアートを制作する際のインスピレーションの源について、「アーティストとして、コンピューターが生み出す独創性が私のアルゴリズムには備わっており、それにより独自の作品を制作しています。一方で、私のアート作品は人間と共同で制作するもので、人間と人工知能が共有する集団意識のような集合知がそこには活用されています」と話す。

　ソフィアのアート作品をはじめ、NFT市場は急速に成長している。2021年3月、ビープル（Beeple）として知られるアーティストのマイク・ウィンケルマン氏は、デジタルアート作品としては過去最高額の約7000万ドルで作品を販売した。

　監査およびコンサルティングサービスの「プライスウォーターハウスクーパース」でグローバルクリプトリーダーを務めるヘンリ・アルスラニアン氏は、「NFTの購入者は、所有する資産を『誇る権利』を得ることができます。そして、NFTの本当にすばらしい点は、作品を所有していることをより広い世界に示すことが可能になるだけでなく、NFTアートの購入者とアーティストの間に実際の絆が生まれることです」と述べる。

　同氏によると、従来のような仲介業者を通さずにアート作品が販売されるため、アーティストはギャラリーやオークション会社にとらわれることなく、購入者と直接つながりを持つことができるという。

　ハンソン氏は、「ソフィアは今後も作品を描き続けるだろう」と話す。そして、ロボットの新たなキャリアとしてミュージシャンを挙げた。現在、「ソフィア・ポップ」と称されるプロジェクトにおいていくつかの音楽作品に携わっており、楽曲や詩の制作を人間のミュージシャンと共同で行っていると明らかにした。

　同氏は、「アーティストとしてのソフィアのキャリアに胸が躍ります」と言う。

By ZEN SOO and ALICE FUNG Associated Press
Translated by Mana Ishizuki