視覚障害者の空港移動をサポート、音声ナビアプリ登場 米空港

AP Photo / Gene J. Puskar

 空港内の移動は、一筋縄ではいかないことがある。騒々しく混雑しており、直観でわかる構造になっていないこともある。目に障害のある人にとっては、なおさら困難だ。

 浅川智恵子氏は、こうした問題を肌で感じている。さらに、解決策を考え出した。

 浅川氏は14才のときに失明したが、今ではIBMフェロー兼カーネギーメロン大学ロボティクス研究所教授を務めている。カーネギーメロン大学の研究者たちと共同で今春、ピッツバーグ国際空港で使用するナビゲーションアプリをローンチした。これは、出発ゲート、レストラン、トイレなど、ユーザーが目的地に行くのにどこで曲がればよいかを教えてくれる音声ガイドだ。

 同空港は、ウェイファインディング(道案内)アプリを提供している世界有数の空港の一つである。「NavCog」とよばれるピッツバーグのアプリは当初、カーネギーメロン大学のキャンパスで使用され、ほぼ屋内GPSと同じような動作をする。

「大事なのは自立」と浅川氏は話す。「技術のおかげで私たちはますます自立できるようになった。これはその一例だ。まだ多くの問題があるとはいえ、もっと楽になれるよう取り組みを続けたい」とも述べている。

 浅川氏によると、ピッツバーグ空港に着いた視覚障害を持つ旅行客は、エスコートサービスを頼むのが一般的だ。だがスタッフが対応できるのは乗客のチェックイン後になるため、カウンターには自力で行かなくてはならない。 

 エスコートスタッフはゲートまで連れて行ってくれるが、その場で立ち去ってしまうという。浅川氏の場合、コーヒーを飲みたい場合や、飛行機が遅延になった場合、自分で対処するのが非常に困難で、ゲートで立ち尽くすこともあった。

 NavCogがあれば、自分でギフトショップやカフェを見つけられるほか、少しばかり散策もできるという。このアプリはすでに実用化されており、無料でダウンロードできる。

 このアプリは空港内に設置された数百ものBluetoothビーコンと連動して機能し、ユーザーの位置を無線で通信する。

 ゲートA3など、自分の行きたい場所を入力すると、アプリは音声で「20フィート(6メートル)歩いて左に曲がってください」と伝えてくれるので、ユーザーは目的地にたどり着ける。このアプリがあれば、自分がどの店の近くを通っているのかがわかるほか、周りの状況や買い物の選択肢の様子をよりよく理解することができる。

 トイレ、レストラン、ゲート、エントランス、チケットカウンターなど場所が割り当てられたターミナルのマップ機能をこのアプリは活用している。

 法律上失明者に分類される10人のユーザーがiPhone 8を使用して実験を行ったこところ、ターミナル内の広いオープンスペース、エスカレーター、歩道をほぼ間違いなく移動することができた。研究者たちによると、大半のユーザーはチケットカウンターに3分で到着したほか、ターミナルを約6分、ゲートからトイレまで1分、ゲートからレストランまで約4分で移動できた。

 カーネギーメロン大学と同空港は、旅行者の体験と空港運営の改善に向けて新しいシステムと技術の開発で協力してきた。空港内にある大学のオンサイトラボでも技術実験が行われている。

「今、将来に向けて施設をモダナイズ(現代化)している。公衆に対する私たちの取り組みの一部には、空港があらゆる人のために機能しているかどうかの確認も含まれる」と同空港CEOのクリスティーナ・カソティス氏は話している。

 ピッツバーグ市では2023年に開業予定の新空港ターミナルを建設しており、ここに最新技術を取り入れることが最重要課題となっている。

 フィラデルフィア国際空港など複数の空港では、「Aira」とよばれる無料サービスが提供されている。ここでは、ユーザーがカメラ付き眼鏡かスマートフォンアプリを介して「エージェント(代理人)」とつながる。

 エージェントは距離を確認し、目にしている内容を伝える手助けをすることで、ユーザーが行こうとしている場所へ案内する。このサービスは通常はサブスクリプションベースとなっており、自宅や職場でも使用できるが、現地でのユーザー使用料は加入した空港が支払う。

 ケンタッキー州ルイビル国際空港は2017年、NavCogと同じようなアプリを設置した。これは、目の不自由な人向けの製品を開発している全米視覚障害者印刷センターが制作したものだ。

 ブライアン・チャールソン氏は、米国視覚障害者委員会で30年以上にわたり道案内に関わっているが、多くの空港や鉄道駅が様々な技術を試行して、目の不自由な人が空間をより気軽に移動できる方法を採用するのを目にしてきた。同氏によるとNavCogアプリは、ここ数年のなかでも有用な複合サービスだという。

 ただし、視覚障害者は高齢で失業者も多いことから、スマートフォンを利用していない、つまりこうしたアプリも利用していない可能性があると注意を促している。

 目の不自由な人にとって、選択肢があるのは常にメリットがあると、ペンシルベニア州視覚障害者協会で暫定CEOを務めるジョン・マキナニー氏は述べている。

「こうしたアプリはとても役に立つでしょう。要するに、他人に手助けを頼まなくてもよくなる。それはよい選択肢なのです」

By KRISTEN DE GROOT Associated Press
Translated by Conyac

Text by AP