VRに賭ける中国、地方都市も拠点化し支援 5Gは追い風となるか

AP Photo / Dake Kang

 リウ・ジクシン氏は、VR(仮想現実)を初めて味わってみたいと思い、首を長くしてゴーグルを装着する日を待っていた。ハイテクとは縁遠い中国の地方都市にあるVRテーマパークへの旅行を決心し、鉱石採掘の仕事から休暇を取得してやってきたのだ。

 リウ氏は、紫色の光を放って回るジャイロスコープを装備したVR戦闘機でロボットを撃墜した。「あたかも現実のようだ。本当に飛行機に搭乗しているかのようだった」と言う。

 長年にわたる誇大広告を横目に、人々のVRに対する熱意はやや冷え込みつつある。しかし、中国の指導者は、結果的に幅広い分野への応用が期待されるVR技術での主導権を握りたいと考え、VR熱を呼び起こそうとして宣伝活動に余念がない。

                                                                                                                 

 中国政府は、自国の起業家に思い切ってVR事業に飛び込んでもらいたいと願い、学生を教育し、オフィス開設に助成金を出し、技術会議や事業の受託競争を後方支援している。

 南昌市にあるVRスターパークには、VRバンパーカーやVRシューティングゲームなど、VRを利用した42種類の乗り物や展示がある。このVRスターパークは、ガラスとスチールを組み合わせて建築された広大なオフィス複合施設は、南昌を代表する「VR基地」だ。しかし、この施設の大半がまだ空室となっている。

 人口550万人の南昌市は江西省の省都である。中国の中南部、銅鉱山の採掘と稲作を地域の産業とする山間部の比較的貧しい地域だ。当局者は、将来南昌市が世界的なVRの拠点となることを期待している。

 VR基地で事業拡大を狙う数ある会社の一つ、インアップテクノロジーの最高経営責任者、シャオン・ゾンミン氏は、「率直に言えば、現時点で中国市場において、VRが100%必要であるというわけではない。しかし、中国政府は強力にVR事業を推進しており、多数の企業、デパート、および関連機関がさらに積極的にVRを試行しようとしている」と語る。

 シャオン氏は南昌の出身だ。しかし、およそ10年間、日本で教育を受け働いた後に中国に帰国し、上海に居を構えた。しかし、南昌の当局者は地元の経済の活性化を狙い、地元出身の有能な人材をより豊かな沿岸都市である上海から地元へ引き戻す誘致の一環として、家賃を無料とし、15万元(約240万円)の起業助成金を提供する条件でシャオン氏に帰郷を呼びかけた。

 サムスン電子、オキュラス、HTC、およびソニーなど各社が洗練されたヘッドセットを発売し、アメリカのエレクトロニクスショーで大好評を博した数年前、中国はVR産業の推進を開始した。

 中国の指導者は、この流行に乗り遅れてしまうのではないかと危惧を抱いた。

 VRは、中国が掲げる「メイド・イン・チャイナ2025」計画に含まれる。この計画は、電気自動車、太陽光や風力を使った発電、およびロボティクス産業をはじめとした最先端技術の分野で世界的な競争力を備えた企業を育成しようという野心あふれるものだ。南昌は、中国国内にいくつかあるVR拠点の一つである。

 現在、VRは主にゲームや企業の研修に利用されるニッチな製品にとどまっており、高価で不格好なヘッドセット、魅力的なソフトウエアの不足など様々な欠点がVRの広範な普及の妨げとなっている。専門家は、VR技術が主流となるまでにはおそらく何十年という長い歳月が必要になるだろうという。
 
 市場調査会社のオーヴァムによると、昨年世界中で販売されたVRヘッドセットはわずか580万台にとどまるという。この数字は15億台を超えるスマートフォンの年間販売台数や、数年前にVRフィーバーが頂点に達した時に予想された数字よりもはるかに小さい。

 大学を卒業し、1年前にVRゴーグルを購入したPCゲーム愛好者のシュウ・シャオ氏は「私のVR体験は、望ましいものではなかった。VRゴーグルをはめたとき、両目が乾燥して不快だったし、めまいも感じた。もうこのゴーグルをほとんど使うことはない」と言う。

 シュウ氏は南昌のVRスターパークに立ち寄ってみたが、感銘を受けなかった。VRによる水路ライドを体験した後、「画質は良くないし、操作が難しい」と言う。

 アナリストの大方の予想では、中国が国家主導で進めるVR普及は、たとえギャンブル的な要素を秘めていても、将来的には成果をもたらすことになるかもしれないという。南昌のVR開発者たちは、過去数年、業界全体でレイオフの波があちこちに押し寄せているにもかかわらず、開発進行の歩みを緩めようとはしない。昨年10月に南昌で初めて開催されたVRカンファレンスには、何千人ものVR開発者たちが参加した。

 オーヴァムの上級アナリスト、ジョージ・ジジアシュヴィリ氏は、「現在の状況は、良い流れのなかにある。これは長編のゲームだ。だから、私はVRがこの先すぐに消えてなくなるとは思わない」と語る。

 しかし、中国はまだ後れを取っている。大半のVRヘッドセットは、サムスン電子、HTC、およびオキュラスなど中国本土以外を拠点とする企業が設計したものであり、主なVRコンテンツを含むプラットフォームは、フェイスブックやグーグルのような巨大企業によって運営されている。

 中華人民共和国工業情報化部は、銀行に対しVR関連のスタートアップ企業への融資を奨励し、地方自治体に対し学校建設や観光地整備などの公共プロジェクトに向けたVR製品への投資を指示するなどして、この状況を変えたいと考えている。

 これまで中国政府は、主に教育、研修、および健康管理ソフトウエアに重点を置き、VRソフトウエアの購入補助金を支給してきた。南昌市は、VR関連スタートアップ企業への投資ファンドとして10億元(約160億円)を保有しており、既存のVR関連企業を誘致するために、また別のファンドの設立を進めている。

 起業家や専門家は、ファーウェイ・テクノロジーズのような中国企業が業界のリーダーシップを握っている次世代の5G技術が、VRにとっては強力な追い風となるだろうと信じている。5Gは、非常に高速な接続速度を保証するため、通信遅延を排してなめらかな通信を実現し、複数のプレイヤーが参加するゲームやライブストリーミングを最適化する。そのため、今日の技術の限界に頭を抱えているVRユーザーにとって、5Gの実現は朗報となる。

 IHSマークイットの上級アナリスト、チャンユー・クイー氏は、「VR技術を利用したeスポーツ、VRフォーマットで配信されるコンサート、および遠隔操作の外科手術などはすべて5G時代が到来して初めて現実的なものになる。5Gは、大衆にとってVRを親しみやすいものにしてくれるだろう」と語る。

 VRの主な商業市場はエンターテインメント用途であることから、中国のVRコンテンツメーカーの多くが深センや北京に拠点を置くゲーム開発企業だ。これらの企業は好況と不況の波の影響を受けやすく、最近では業績が低迷している。

 中国国家による支援のおかげで、南昌の開発者たちは、極端な好不況の循環からは保護されている。しかし現在、業界は小康状態にあり、VR起業家のシャオン氏は自身の立ち上げた会社を破綻させることなく維持するよう腐心している。

 シャオン氏の夢は、いつの日か中国のVRに対する賭けが大当たりし、13人の従業員しかいない自身の会社が業界の巨大企業として大きな成長を遂げることだ。

 シャオン氏は、「当社が上場できるようになる日の到来をとても楽しみにしている。そして、江西省で成功した企業の模範となりたい」と語る。

By DAKE KANG Associated Press
Translated by ka28310 via Conyac

Text by AP