Apple Watch、心臓の異常を検知できる可能性 42万人対象に調査
ある大規模な研究結果によると、アップルウォッチを使うことで毎回ではないものの、今後注意が必要となる心臓の不規則な動きを検知することができるということが示唆された。しかし専門家によると、ウェアラブルデバイスを使って心臓の異常を検知することが本当に有用かを立証するには、さらに研究を重ねる必要があるという。
今回行われた異例の研究には、41万9,000人超のアップルウォッチユーザーが参加した。健康に問題がなさそうな人々を対象とし、心房細動の有無を検査するという研究としては、過去最大規模のものとなった。心房細動は、放置していると脳卒中を引き起こす恐れもある病気だ。
スタンフォード大学の研究チームが3月16日に発表したところによると、アップルウォッチの診断では、異常の可能性を指摘されたのは被験者の0.5%程度にあたる約2,100人に留まり、大勢の参加者に動揺を与える結果とはならなかった。
しかし、今回の研究に関与していないアメリカ心臓学会のリチャード・コヴァック医師は、異常を指摘された人がいたものの、「それでは完璧とは言えない」と警告する。
指摘を受けた被験者は、遠隔医療で試験担当医の診察を受けた後、アップルウォッチの精度を確かめるため、心臓の動きを測定する心電図を一週間装着する予定となっていた。一部の被験者は遠隔診療をせず、自身の主治医による診察を受けており、全体では約57%が医師による診察を受けた。
ニューオーリンズで行われたアメリカ心臓学会の会議で報告された中間結果によると、心電図を用いたモニタリングに応じた被験者の3分の1が、心房細動を患っていたとしている。
スタンフォード大学研究チームのリーダーを務めるミンツ・ツラキア医師は、心房細動には、症状が現れたり消えたりするという傾向があるため、1週間のモニタリングでは何例かの症状を見逃した可能性があるとしている。しかし同氏によると、被験者が心電図を装着している間にアップルウォッチが再度心拍の異常を検知したケースでは、その84%が本当に心房細動であった。
スタンフォード大学の医学部長を務めるロイド・マイナー医師は、「今回の研究は、アップルウォッチが心房細動を検知し、利用者に今後モニタリングや検査が必要となる可能性を指摘するという使い方ができることを示す前向きなエビデンスを得られるものだ」と言う。
そのほかの心臓の専門家からは、アップルの出資により行われた今回の研究の結果、ウェアラブルデバイスを用いた検査が技術的に実現可能であるということが示唆されたものの、さらに研究を重ねる必要があるという意見があがっている。
元アメリカ心臓協会会長で、現在はニューヨーク・マウントサイナイ病院心臓科の心臓血管研究所所長を務めるバレンティン・フステル医師(今回の研究には不参加)は、「私なら、これを万人にはお勧めしない」と述べた上で、高血圧を始めとするリスク要因を持つ高齢者を対象とした試験の結果を見たいとしている。
◆心房細動とは?
心房細動とは、心臓上部にある心房と呼ばれる部屋が、下側の部屋のポンプ運動と調和が取れなくなっている状態を言う。心房細動を患うと、脈の乱れや動悸を感じることもあるが、大抵の場合は、症状の発現に気づかない。
心臓のリズムが正常に戻る場合もある。そうでない場合には、電気ショックで心臓のリズムを元に戻したり、心房細動を放置すると血栓を誘発する恐れがあるため、抗凝血剤を定期的に服用したりして脳卒中の原因となる血栓を防ぐ。アメリカでは、心房細動により年間1万3,000人が死亡し、75万人が入院している。
◆病院での検査方法は?
心房細動は高齢者のほか、高血圧、家系、不整脈といったリスクを持つ人に最も多く見られる。しかし症状が出ていない場合には、定期的な検査は勧められていない。これまでの研究ではまだ、脳卒中を予防する上で、不必要な検査や過剰な治療によるリスクを十分上回るだけの効果が、検査による早期発見にあると立証できていない。
◆アップルウォッチを使った検査方法は?
モバイルアプリの場合、あるバージョンの時計には光学センサーを搭載しており、脈拍数のデータを分析することができる。それにより、48時間で心拍と心拍の間隔にある程度のばらつきを検知したら、心臓のリズムが不規則となっている旨を伝える警告が利用者に届く。
最新バージョンのアップルウォッチでは、装着してボタンを押すと心電図が起動し、その測定値を医師と共有できるようにもなっている。16日発表の研究では、この機能を備えた時計を扱っていない。
◆今回の研究は、マススクリーニングの有用性を示す結果となったのか?
答えはノーだ。今回の研究は、アップルウォッチと、心電図を1週間用いた標準的なモニタリングの結果を比較することを目的に、不整脈を見つける検査を実施した。そのため、時計をつけた人の健康状態が改善したかどうかという点は、研究の対象外だ。心房細動の早期発見が脳卒中のリスク低下に繋がるかどうかを証明するには、長年にわたる研究が必要だ。
さらに今回の研究では、定期的に心電図検査を受けている比較群を用意していなかったため、アップルウォッチが心拍の異常を見逃した可能性の有無はわかっておらず、異常なしという誤った結果を伝えていることもあるとコヴァック氏は指摘する。
同氏によると、異常を指摘された件数が妙に少なかったことはおそらく、被験者のほとんどが心房細動のリスクが最も高い高齢者ではなく、若年層、中年層であったことが原因となっている。
By LAURAN NEERGAARD AP Medical Writer
Translated by t.sato via Conyac