コンピューターによる環境負担を劇的に軽減する「スピントロ二クス」とは

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著:Oscar Céspedesリード大学、Associate Professor of Physics)

 人間社会は、毎年発売される優れた電子ガジェットにいつしか大きく依存するようになった。毎年、より高速で洗練された新しいスマートフォンやタブレット、ノートPCなどが発売され、ますます多くの機能が利用できるようになっている。しかし、電子機器のリサイクルはほとんど実施されておらず、インターネットに関わる二酸化炭素排出量は、既に旅客機による空の旅で発生する二酸化炭素排出量よりも多くなった。そして、インターネットに関わる電子機器は「レアアース(希土類)」や重金属、および貴金属を使用する。そのため、稀少な金属資源や、時に有害であることの多い金属物質の採掘に伴う環境汚染や社会的・経済的な問題が浮上している。

 情報ネットワークを世界中に伝搬し維持するのに必要な電力は、イギリス全体で消費する電力量を上回っており、データセンターのエネルギー需要は今後10年間で3倍になると予想されている。グーグルで検索を3回行うと、60ワットの電球を1分間点灯するのと同じ電力を消費し、二酸化炭素を0.6グラム排出するという。そして、コンピューターは既に大量の排熱を産生しており、フェイスブックのような企業がサーバー機器類の効率的な冷却のために北極圏に新しいデータセンターを次々と建設しているほどだ。

                                                                                                                 

 これら全ての現状を考慮すると、我々がコンピューティングに求めるニーズを満たしつつも、動作中の発熱と電力消費を低く抑止できるようになれば、それは歴史に残る技術革新となることだろう。実際、技術的・社会的な破綻を防ぐためには、低炭素コンピューティングへの大がかりな転換が必要だ。

 たとえ環境面への影響を無視したとしても、現在のコンピューティング技術は、サイズや処理速度など基本的な物理限界に少しずつ近づいている、という現実は変わらない。より多くのトランジスタが小さなコンピューターチップに凝縮して搭載され、最終的には、今後10年以内に、個々のトランジスタは、デジタル情報を確実に伝達できる電荷を保持できる最小限の物理サイズに達することになる。だから、その前に新たな技術革新を実現できるか否かが、環境に優しく、低消費電力の電子デバイス素材を新しく開発できるかどうか、に委ねられている。

 生産ラインやインフラ、そして労働方法を刷新するために必要となる莫大な産業投資や公的投資を正当化するために、この新しい技術革新は、環境にとってより良い、というだけでなく、全ての面で従来の技術を遥かに凌駕するものでなければならない。これまでとは桁違いに高速に動作し、冷却ファンを回す必要が無く、バッテリーを1回充電するだけでずっと長く連続使用でき、大量のデータを格納しながらも瞬時に所望の情報にアクセスできるようなコンピューターを想像してみよう。まさに誰もが欲しがる夢のコンピューターだ。

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 今のところ、従来のハードディスク(磁気記憶装置)やシリコン材をベースにした記憶装置技術が依然として支配的である。科学者たちは多数の代替となりうる選択肢を考案してきたが、分子エレクトロニクスをはじめ多くの試みは、当初期待された機能や性能を十分に発揮できず、いまだ日の目を見ない。一方、量子コンピューティングや超電導デバイスなどは、極めて専門的な領域で試行されたり、遠い将来を見据えて長期的に研究されたりしている。

 ここで、我々の進化の歩みを緩めることなく、生態系や環境への影響を最小限に抑えるために、他の選択肢がある。それは、電子の移動や電荷のみによって情報を伝達するのではなく、電子の「回転」を測定して情報の記憶や伝達に応用しようという「スピントロニクス」だ。これは私の専門分野でもある。この方式の利点は、電気伝導に際し、送電ロスをほとんど伴わない、という点だ。

 スピントロニクスは現在、例えばハードディスクの読み取りヘッド部分などコンピューターのセンシングを担う個所で実用化されている。スピントロニクスの応用なしでは、非常に狭いスペースにこれほど多くの情報を記憶したり読み出したりすることはできなかった、と言える。将来的には、デバイスが発する熱量を電力に変換して再利用を可能にしたり、車載センサーや生物医学へ応用したりする効果も期待されている。

 これまで述べた全ての技術において、炭素を含む有機分子が重要な役割を果たす。それらの有機分子は環境に優しく、同時に、電荷を蓄えたり情報を伝搬したりできる。しかし、これらの材料は、金属の薄膜上に有機分子の非常に薄い膜を形成する必要があり、その結果、両薄膜が電子を共有し(異種物質による電子共有)、それぞれの物質の性質に変化を与えることになる。この特性を利用し、例えば、銅のような非磁性体素材に磁気を発生させることができるようになる。すると、コストも高く、環境破壊につながる電力消費を削減し、同時に、稀少で高価なレアアースを使わずに技術進歩を進めることが可能になる。

 これらの技術の多くは、ひょっとすると我々の存命中は研究室レベルにとどまり、実用化には至らないかもしれない。個人が所有する電子デバイスに広く普及することなく、科学者たちの研究対象のまま単に実験レベルの域を出ない可能性もある。しかし、成功するのがそのうちのいくつかの技術のみであったとしても、我々のコンピューターがもたらした仮想環境との向き合い方や、実際に我々をとりまく自然環境、健康、政治もしくは移動や物流に対し何ができるかを考え、段階的な変革をもたらす第一歩につながるのは間違いない。そして、このような技術進化を実現できるかどうかは、我々人類(ホモ・サピエンス)が、将来、テクノロジーを自在に操る人類(ホモ・テクノロジカス)となれるかどうかの分岐点となる。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by ka28310 via Conyac

The Conversation

Text by The Conversation

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