脳深部へピンポイント投薬 MITの新手法、鬱病などの治療に期待

Canan Dagdeviren / AP Photo

 科学者らは、超細型の針を使用したインプラントシステムを開発。遠隔操作により、薬剤を脳深部へ、ピンポイントの正確さで投与できる。

 現時点では動物での試験しか行われていないが、この技術は、手の届きにくいところにある脳回路の、治療を必要とする箇所のみを標的とするため、副作用を抑えられる可能性があり、成功すれば脳疾患の新たな治療法となり得るだろう。

 先月24日にこの研究結果を発表した生物医学研究チームを率いる、マサチューセッツ工科大学 (MIT)のロバート・ランガー教授によると、「疾患の種類を問わず、薬剤を望み通りの箇所に、正確に投与できる」。

                                                                                                                 

 鬱病からパーキンソン病に及ぶ様々な脳疾患に、より効果的かつ安全な治療法が求められている。血液脳関門と呼ばれる領域の先までは、薬剤を投与するという単純なことが難しい。脳の最深部となれば、よりいっそう困難となる。

 経口投与薬や静脈注射は、薬剤が脳の全領域に浸透するため、副作用を引き起こす。そのため医師らは、脳にチューブを挿入し、ポンプを使ってより標的部分に近いところへ薬剤を投与しようと試みてきたが、感染症のリスクがあり、正確性も未だ十分ではない。現時点で最も優秀な投薬法とされているのは、癌の治療に使用される手法で、外科手術で脳腫瘍を切除した箇所に、オブラートを置いて薬剤を染み込ませるというものだ。

 そこでMITの研究チームが開発した手法が、カスタマイズ可能な脳深部へのインプラントシステムだ。このシステムでは2種類以上の薬剤を、必要に応じ、様々な量で投与できる。

 研究チームは2本の超細型投薬チューブを作成し、それを人の髪の毛ほどの直径の、ステンレス製の針の中に入れた。その針は標的とする場所に、出来るだけ正確に届くように調整されており、頭蓋骨に空けた穴を通して、治療を必要とする脳回路へと挿入される。

 針の先端に取り付けた電極が、薬剤投与時に、標的とする神経細胞の電気活動がどのように変化するかモニタリングし、フィードバックを返す。

 針には薬剤を詰めた2つのポンプが繋がっており、それをプログラムで制御できる。MITの計画では、そのポンプを皮下の一部に装着することで、MiNDS(miniaturized neural drug delivery system:小型神経薬剤投与システム)と呼ばれるシステムを完全に埋め込む。ランガー教授によると、注射を使ってポンプに再度薬剤を詰めることができ、3種類以上の薬剤を必要とする場合には、プリンターのインクカートリッジのように、詰め替え用の容器を追加できる。

 初の試験では、研究室のラットにMiNDSを使用した。

 研究チームは、ラットの脳の、行動に関わる領域に針を埋め込んだ。パーキンソン病で被害を受ける領域だ。このインプラントシステムを使って、パーキンソン病を再現するため、ラットが時計回りに何度も回るなどの異常行動を起こす薬品を投与した。その後、この薬品の投与を止め、インプラントシステムの2つ目の投薬経路から、生理食塩水を注入。するとラットにパーキンソン病のような挙動が見られたと、MITの筆頭著者であるキャノン・ダグデビレン氏が、サイエンス誌のトランスレーショナル医療で報告した。

 サルでも実験を行い、同じ薬品を別の領域に投与したところ、標的とする脳細胞の反応が変化することがわかった。

 ピッツバーグ大学で生物工学の教授を務めるトレイシー・キュイ氏は、「これには治療法としての多くの可能性がある」と言う。キュイ氏はMITの研究には参加していないが、この種の技術を開発している。

 キュイ氏によると、様々な方法で神経薬を投与すべく、数々の研究チームがインプラントシステムの開発を進めている。同氏はまた、このようなシステムを人間で試すには、さらに実験を重ねる必要があるとした上で、様々な化合物に対する神経の反応を示すフィードバックを集めることができるため、研究のためにもこのようなツールが重要だと述べている。

 この研究には、アメリカ国立衛生研究所が資金を提供。MITが特許を申請した。

By LAURAN NEERGAARD, Washington (AP)
Translated by t.sato via Conyac

Text by AP

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