肉声が漏洩すると……AIアシスタント製品、プライバシーへの脅威の恐れ

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 今年はじめにアメリカで開催された世界最大の家電見本市CESでは、AIアシスタント製品が大きな存在感を示した。AIアシスタント市場をめぐっては、グーグルとアマゾンがその覇権を奪取すべく競争しているが、その陰で新たにプライバシーへの脅威が生まれるとして危惧されている。

◆AIアシスタントの急速な台頭
 ビジネス系ニュースサイト『VentureBeat』は、3つの数字を引用してAIアシスタント市場の活況を報じている。1つめの数字は、調査会社IDCカナダが2018年内に100万のカナダの家庭にAIアシスタントを搭載したスマートスピーカーが普及すると予測したものである。2つめの数字は、アメリカのニュース専門放送局CNBCが調べたところによると、現時点でアメリカ成人の6人に1人、つまり3,900万人のアメリカ人がAIアシスタントを所有している、というもの。そして3つめは、調査会社Edisonリサーチとラジオ局NPRの共同調査結果によると、アメリカのAIアシスタント所有者のうち65%がもはやAIアシスタントなしの生活は考えられないと感じている、というものだ。

 以上の数字はさらに増えることが予想されている。というのも、現在AIアシスタント市場をけん引するグーグルとアマゾンに加えて、アップルが市場参入するからだ。アップルが2月9日にアメリカを皮切りにリリースするスマートスピーカー「ホームポッド」は、349ドル(約3万8千円)とグーグルホーム(129ドル、約1万4千円)やアマゾンエコー(99ドル、約1万円)に比べかなり高額となるが、アップルには同社の製品を購入することに熱心な消費者が多数存在するので、同社のAIアシスタントは相当数売れることは確実なのである。

◆追うグーグル、迎え撃つアマゾン
 今年の家電製品市場における台風の目とも言えるAIアシスタント市場は、現在グーグルとアマゾンがその覇権をめぐって火花を散らしている。この戦況をビジネスインサイダー誌は伝える。今年のCESにおいて、グーグルは同社が開発した人工知能グーグルアシスタントが、レノボ、LG、ソニーといった多数のメーカーの製品に実装される予定であることを発表した。そうした製品には、グーグルホームにディスプレイを加えた「スマートディスプレイ」もある。この製品は、明らかにアマゾンがリリースしているスマートディスプレイ「アマゾンエコー・ショー」を意識したものだ。

 グーグルに追われる立場のアマゾンは、同社開発の人工知能アレクサを実装した製品のラインナップを拡大している。具体的には、アレクサの存在を世に知らしめたアマゾンエコー・シリーズを筆頭に、ファッションチェックが可能なエコー・ルック、置き時計型のエコース・ポット、そして前述のエコー・ショーとすでに多様な広がりを見せている。さらにアマゾンは、アレクサが実行できる3万の機能(ちょうどスマホにおけるアプリに相当し「スキル」と呼ばれる)を作成したデベロッパーへ報酬を与えるとを計画している。まさにグーグルの追随を許さない構えだ。

◆新たなプライバシーへの脅威の出現
 以上のように成長著しいAIアシスタント製品には、実のところ、憂慮すべき脅威が潜んでいることをテック情報サイト『The Verge』は指摘する。その脅威とは、AIアシスタント製品を動作させるユーザの肉声が漏洩することによって、プライバシーが侵害される恐れがあることだ。現在の音声認識技術をもってすれば、記録された肉声からユーザを特定することは容易い。実際、アメリカ国家安全保障局がVoice RTと呼ばれる音声認識システムを使ってパキスタン軍の将校の動向を追跡していたことを示す文書が公開されている。

 グーグルとアマゾンが、AIアシスタント製品から取得できる肉声をどのように管理しているかについては不明だ。ただ、サービスを改善するという名目で肉声を保存していても全く驚くことではない。この保存された肉声を解析すれば、ユーザの日常生活を文字通り丸裸にすることは容易なのである。そして、まさにユーザの生きた痕跡と言える肉声情報を、政府機関が安全保障上の理由で開示を求めるケースも容易に想像できる。AIアシスタント製品の普及はクールな生活を実現する一方で、新たなプライバシーに対する脅威をもたらすのかもしれない。

Text by 吉本 幸記