ショッピングを「辛い」から「楽しい」へ ARで身体障害者の買い物をサポート

Pressmaster / Shutterstock.com

著:Zulqarnain Rashidダンディー大学 Research Assistant)

 昔に比べれば、私たちの暮らす町や市街は、車椅子を使う人々にとって遥かに便利なものとなった。最新のバスや電車には車椅子用のエリアが設けられており、身障者専用の駐車スペースも一般に広く普及している。レストランやバーなどの公共の場所でも、その多くが車椅子でも便利に使えるトイレを備えている。

 車椅子の技術進化による支援を得て、身体障害者がこれまで以上に高いレベルの自立を楽しめるようになった。しかし、私たちが普段、何気なく行っている日常的な活動に関して、彼らはまだ大きな障害を負っているのが現状だ。その好例のひとつはショッピングだ。車椅子の人にとって手が届かないところにある商品棚は、常に問題となる。

main

手に届かない商品棚 著者提供

 我々がインタビューした際に車椅子ユーザーのグループが確認したように、この事実は彼らの自立感に大きな影響をもたらす。階段を登ったり、または高い縁石を乗り越えたりしなければならない時など、どうしても必要でない限りは、彼らは援助を求めることを好まない。彼らは、通常の店に行き、他の人たちと同じように商品を品定めしたいと考えた。彼らは、その助けになりそうな技術のアイデアにはとても好意的だった。それがこれから述べるシステムの設計を我々が行ったそもそもの発端だった。

 我々は、障害のレベルが異なる3グループの人々のためのシステムを試行した。最初のグループは、両手が完全に使える人たちだった。2番目のグループは、手の震えなどの問題のために、手の動作に制約のある人たちだった。3番目のグループは、車椅子を動かす場合などのごく限られた一連の行動に対してのみ手を使うことが出来る人たちで、概してコミュニケーション上の深刻な問題をそれぞれ抱えていた。

◆とても幸せな人々
 最初のグループの人たち向けのシステムには、スマートフォン/タブレット用のアプリを導入した。これは、ほとんどの人がこのようなデバイスを所有しているという事実を利用したものだった。私は、このシステムを試用するため、自分が博士号を取得したバルセロナにあるポンペウ・ファブラ大学のキャンパス内にDVD/CD/書店を開設した。ユーザーはこの店に入店する時は起動したアプリをクリックする必要があり、クリックすると店の入り口のように見えるように設計された仮想の店舗が現れた。

main

タブレットでショッピング 著者提供

 そしてユーザーは他の顧客と同じように店内をあちこち巡回していく。そして気になる商品の置いてある棚まで来ると、手に持っているデバイスをその商品に向ける。店舗の商品棚は、そのおおまかな寸法とそこに置いてある商品についての情報を無線周波数で伝達することのできる拡張現実技術をすべて備えていた。

 ユーザーのデバイスの画面にはこの商品棚が表示され、商品が置いてある領域にタッチする。すると、アプリはその領域にある商品を一覧表示する。ユーザーは、表示された商品を選択し、価格や有効期限などの情報を入手したり、この商品を購入したりできる。

 関連するすべての情報がリアルタイムで更新されるように商品棚は設定されていたが、これはユーザーが購入する可能性のある商品について誤解を与えないようにするために不可欠だ。そしてスタッフは、商品をチェックアウトする準備が整ったユーザーのために購入品用バスケットを組み立てる。

main

固定されたタブレットで商品を選ぶ 著者提供

 2番目のグループのユーザーは皆、手助け無しではスマートフォンを使用することができないため、商品に関連する棚に隣接し、適切な高さに固定したタッチ式のスクリーンのプロトタイプを彼らのために開発した。スクリーンには、このグループに属する人々のために従前の研究でも推奨されてきた大きなフォントとインターフェイスを実装した。

 3番目のグループには、上述の2つの解決策のいずれもその障害をカバーするには十分ではない重い障害を持つ人が含まれていた。しかし、我々の最初のインタビューで確認できたように、通常の店を利用したいという彼らの抱く欲求と動機は健常人と何ら変わらないものだった。そこで我々は、スマートシェルフとGoogle Glassのようなスマートグラス製品を組み合わせたシステムを思いついた。このシステムは、音声コマンドまたはデバイスの側面に触れることでユーザーが商品を選択できることを除けば、最初のシステムと同様に動作するものだった。

main

スマートグラスを使う人(A)とスマートグラスを通して見えるもの(B) 著者提供

◆次は何?
 我々は1番目および2番目のグループからそれぞれ7人、3番目のグループから4人の合計18人のユーザーを被験者とし、それぞれのシステムを試行した。予備的な評価を行ったところ、被験者の自立の改善につながる有望な結果が得られた。このシステムでの体験は、オンラインショッピングに近かったが、実店舗でのショッピングにも通じる体験ができた、という結果だ。

 今回のシステムの主軸であるスマートフォン/タブレット用のアプリを導入したシステムが最も成功した。ほとんどの人が既にスマートフォンを使用しており、その技術をよく理解していたという事実が成功を後押しした。ユーザーの一人はこう言った。

 これらのインターフェイスは、他人に援助をお願いしたり、手伝ってもらったりせずに自分でショッピングするのに役立ちます。私はこのシステムを実際の店で利用できるようにしたいと思います。こういうシステムに慣れることは非常に簡単であり、もっと自立できる機会につながると考えます。

 タッチスクリーンを備えたシステムは、若干の説明と事前の練習を必要としたため、大成功とは行かなかったものの、研究に参加したユーザー達はその可能性に触れた興奮を隠しきれなかった。一方で、スマートグラスを用いたシステムは、多くの訓練と調整を必要とした。我々は、このシステムのユーザーはスマートグラスの使用にあらかじめ精通していなければならないという結論に達した。これはつまり、将来的には現在よりも潜在的に大きな可能性を秘めたシステムになり得る、ということになる。

 このシステムのいずれかが主流になるとすれば、コストが明らかな課題として浮上するであろう。スマートシェルフに最大のコストが掛かるのだが、大手の小売業者はすでに在庫管理や盗難防止などを目的として、このスマートシェルフの利用を開始している。我々の着想は、システムをこの流れに便乗させよう、というものだ。小売業者は、これまで述べた3つのソリューションの全てを導入するのか、それとも1つ、または2つのみを導入するのかを決定することになる。

 この問題を解決しようとしているのは我々だけではないが、完全な解決に到達した者はまだ誰もいない。我々の次なるステップは、車椅子のユーザーが簡単にアクセスできる公共の場所に実験的なパイロットショップを設立することだ。そうすれば、さらなる改良を加える機会が得られる。そして、その時点でこれらのシステムを本格展開しようと考えている。比較的近い将来に、身体障害者への優しい対応として駐車場やトイレが改善されたのと同様に、車椅子でのショッピングも進歩していくことを切に願う。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by ka28310 via Conyac

The Conversation

Text by The Conversation