米軍は「暴力的で無秩序で美しい」ビデオゲームをどのように使っているか

著者:Scott Nicholas Romaniukトレント大学 Ph.D. Candidate)、Tobias Burgersベルリン自由大学 Doctoral Candidate)

 過去数十年間、特に9.11(米国同時多発テロ事件)以降、バイオレンスビデオゲームはアメリカ文化に浸透し、一人称シューティングゲームの人気の高騰は顕著である

 プレイヤーの視点を銃の背後に置いたこれらのゲームは、子ども達をテロリストやエイリアンと戦うデジタル戦士に仕立てた。大多数のプレイヤーは単純に一人称シューティングゲームを無邪気に楽しむだけで、目標を達成したりチームの一員になったりするのが好きな人もいれば、特に自分たちを傷つけようとする敵を倒すことに単純に快感を味わう人もいるのである。

 米軍は一人称シューティングゲームの開発を歓迎しており、近年では、任務外の兵士を含み多くの兵士に戦闘訓練を続けさせる手段としてバイオレンスビデオゲームを奨励している。(事実、米軍は長年軍用戦術にゲームを利用しており、ビデオゲーム以前は、戦闘をテーマにしたボードゲームを奨励していた。)

 ゲームは、兵士が戦闘での役割を自宅に持ち帰ることを認め、実際の任務と任務外での役割、非戦闘時と日常での義務を曖昧にしている。

 これらのビデオゲームは米軍にどのような影響を与えているのか。軍での生活を正確に描写しているのだろうか。実際に兵士のリクルートや訓練、軍隊への残留のために役立っているのだろうか。

◆戦闘画面から戦場まで
 兵士のリクルートや訓練における一人称のバイオレンスシューティングゲームの役割を理解するための調査の一環として、24歳から35歳までに米軍に在籍していた15名の現役または退役兵士にインタビューを行った。

 インタビューに応じたほとんどの兵士は、勤務外でも兵士としての考え方をすることが大事であるとし、一人称シューティングゲームはそれを実践するのに最適な手段であると述べた。

 現役の地上部隊のメンバーが「最もリアルな攻撃を体験できるゲーム」だと認めた「ゴーストリコン アドバンスウォーファイター2」と「アルマ2」を始め、インタビューに応じた兵士のゲームの好みは多様であった。

 イラク戦争の経験者は、「コール オブ デューティ ブラックオプス2」と「コール オブ デューティ:モダン・ウォーフェア」を「かつてない究極の一人称シューティング経験で、徹底的かつ超現実的な戦闘戦術へのアプローチだ。こっそり攻撃するか全面的に正面から攻撃するかの選択もゲーマー次第。攻撃的で無秩序、かつ美しい」と表現した。

 この兵士は、他の兵士同様、ビデオゲームが現実の戦闘状況を映し出していると述べた。

◆作り変えられた現実
 しかし、ゲーム上で兵士の本当の生活を正確に再現するのは無理である。第一に、実際の軍事攻撃は一人称シューティングゲームのように単独での攻撃や無秩序な戦いではない。全ての兵士が最前線に立って戦う訳でもないのである。

 第二に、最も重要な点であるが、デジタル世界では法的および倫理的な配慮を要求しない。たとえ事態が誤った方向に進んでも、たとえ罪のない人々が殺されても、関係ないのである。これらの現実には起こり得る事象をゲーム上では何でも覆い隠してしまうのである。2012年に心理学者のブロック・バスティアン氏、ジョランダ・ジェッテン氏、ヘレナR.M. レーク氏は、脳スキャンの結果から、バイオレンスビデオゲームにはプレイヤーを現実にある暴力や他者の苦しみに対して無関心にさせる影響力があることを提示した

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RebeccaPollard/Flickr, CC BY

 政治学者のピーター・シンガー教授は、ブルッキングス研究所の2010年の記事に志願兵のリクルートとその訓練のためのビデオゲーム「アメリカズ・アーミー360」作成に携わった特殊部隊の兵士の言葉を引用した

 「現実を見失うのだ。ゲームは再起動できるが、現実には、友を失うのである。友を失い、彼を埋葬し、そして、彼の妻にその事実を告げなければならないのだ。」

 ジャーナリストのエヴァン・ライト氏は、その著書「ジェネレーション・キル 兵士たちのイラク戦争」において「兵士達は、ビデオゲーム・テレビ番組の現実・インターネットポルノの文化に精通している」と紹介している。

 しかしながら、現実の戦闘はまったく異なるものなのである。

 「多くの兵士は無意識のうちに無実の水準を見出していると思う。実際に人々を撃ち、特にそれが罪のない人々で、その事実に直面したとき、兵士たちが崩壊するのを目の当たりにした。 ゲーム上での攻撃はこの現実を組み込んでいないのだ。」

 ビデオゲームは兵士を虜にし、栄光と戦闘の興奮の魅惑を味わわせるが、実際の戦場にあるのは脅威であり、ゲームにはこの種の恐怖を備えていないのである。

 ある兵士はインタビューで「政府が真剣にゲームを訓練として捉えているのかと思うと笑わずにはいられないし、少し不安さえ感じるよ」と述べた。

◆ゲーマーの武装集団
 トレーニングツールとしての有効性に関わらず、バイオレンスビデオゲームが潜在する志願者を軍隊に呼び込むための貴重なツールとして確かに機能することがある。ゲーマーを兵役に志願させさらに軍隊の地政学的目標を達成するためにも有効なのである。

 ジャーナリストのハムザ・シャバン氏は、2013年にオピニオン雑誌「The Atlantic」の中で、軍隊とゲーム業界の親密な関わりと「軍事エンターテイメント複合施設」の構築について記述している。シャバン氏によると、両者の関係がゲームを生み出し、刺激的かつ手軽で簡単に行える戦闘ゲームが、そのプレイヤーに軍隊でのキャリアを考えるように勧めたとしている。

 また「アーバンシム」「タクティカル・イラク」「フロントライン:フュエル・オブ・ウォー」などのゲームは現代の戦争に対する様々な捉え方についてプレイヤーや潜在する志願者に教えている。このゲームは、イスラム過激派との戦いだけでなく、非友好的な人々を西欧主義や民主主義的社会へ取り込む事も目的としている。反乱と対反乱活動の原理に即し、間に合わせの爆発装置の危険性を示し、兵器化された無人機の軍事的有用性を強調しているのである。

 しかしながら、我々が話した現役兵士や元軍人には、一人称シューティングゲームにプロパガンダ以上の価値を見出している人もいたのである。

 「ゲームを使って自分たちを訓練するという考えは、若干災難であると言える。米国がゲームを利用して達成しようとしていることは、彼らが完全にコントロールできるものではないのだ。我々に関心を持たせるには安い手段かもしれないが、とても訓練とは言えない。」

 別の兵士は「一人称シューティングゲームは、洗脳以上のなにものでもないが、すべてを受け入れさせるためには、相当愚かな奴でなければ洗脳できない」と付け加えた。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by ohihs via Conyac
photo via Miyaoka Hitchcock/flickr, CC BY-NC
The Conversation

Text by The Conversation