ティンダー(Tinder)が「邪悪な快感」である理由

著者:Jeanette Purvisハワイ大学 心理学 Ph.D. Student)

 現在アメリカではデジタルメディアの60%はデスクトップではなくスマホやタブレットによって消費されている。人と技術がますます流動的になり、愛とセックスを見つける努力をしなければならなくなった。アプリ分析ツールの「アップアニー」によると、出会い系アプリのティンダー(Tinder)は現代のロマンスを見つけるツールとして最も人気が高く、アメリカで最もダウンロードされているライフスタイルアプリとして、2年近くランキングされている。

 インタビュー参加者の表現を借りると、なぜティンダーが「邪悪に満足」させるのかを私は社会心理学者として探っている。ティンダー上での性的出会いを探究する論文のために、インタビューやネットへの投稿などを通じ、ティンダーユーザーがアプリを使った経験について様々な調査をした。私の予備調査結果は、ティンダーユーザーが実際に他の出会い系サイトを利用する人あるいは全く利用しない人とは異なる成果を得ているという結果を示唆している。

 具体的に言うと、ティンダーは研究者が「フィードバックループ」と呼ぶものを引き起こしている可能性がある。男性はあまり厳格な選定基準を持たずどんどんスワイプして相手を見つける一方で、女性は溢れんばかりのマッチングに対してより明確な基準を持っているのである。しかし視覚で判断しスワイプする方が、ロマンチックな感覚に頼るよりも簡単に相手を見つけられるかもしれないので、警鐘を鳴らすのはまだ早い。

◆ゲーム感覚で
 マッチ(Match)やイーハーモニー(eHarmony)のようなほとんどの出会い系サイトでは、緻密に構築されたアルゴリズムに基づいて類似のユーザーを繋げようとするが、ティンダーではそれをしない。ティンダーでは位置情報を使用し、ユーザーがいる場所やその周辺にいる潜在的なデート相手の写真をユーザーに送る。ユーザーは相手のプロフィールを見て気に入れば「右スワイプ」、気に入らなければ「左スワイプ」するのである。プロフィールを見て双方が「右スワイプ」すると「マッチング成立」が通知され、互いにメッセージを送ることができる。ティンダーによるとこのアプリはフランスやアフリカのブルンジなど196カ国以上で利用され、1日に14億回「スワイプ」されるそうだ。

 ティンダーのロマンスへのアプローチは単純で残酷なほど効果的である。マッチングの基準は単純で、見た目、交際状況、場所である。ティンダーユーザーは、僅か1秒ほどの閲覧で他人の魅力を測り、驚くほど素早くプロフィールを仕分けるのである。

 心理学的見地からすると、ティンダーのインターフェースはこの急速なスワイプに対応できるよう完璧に構築されている。ユーザーにはどのスワイプがマッチング成立という「報酬」をもたらすか分からず、ティンダーは潜在的なマッチングがランダムに分散する可変比率の報酬スケジュールを採用している。これはスロットマシーンビデオゲームに使われる報酬システムで、ハトに壁の光を連続的についばむように訓練するような動物実験にも使われている。

 麻薬中毒者の脳についての研究では、薬物への期待値の方が薬物そのものに対面するよりも快楽性神経伝達ドーパミン物質をより多く放出すると報告している。同様にティンダーで次のスワイプが報酬につながるかもしれないという期待が、次のスワイプまた次のスワイプへとスワイプし続けさせ、癖にさせるのである。驚くことでもないが、ティンダーは2015年にはプレミアムサービスのティンダー・プラス未購入ユーザーに対して1日あたり右スワイプ100回と制限したのである。ティンダーアカウントを解除しようとしている人たちのためのティンダー撤退者による記事もある。

 相手を見つけるという点において、ティンダーは簡単に相手を見つけてくれる最速の手段である。ただ近くにいて利用可能で魅力的なら、右スワイプするだけである。

 短期間の付き合いなら、十分かもしれない。

◆性の分断
 ティンダーの有益性はそれだけだろうか。アプリを使う動機が男女で異なるという研究がある。

 女性は短期間に集中した性交渉を求めるのに対し、男性は性交渉の期間が繰り返されることを求める。さらに男性は直接的で素早く接近し誘ってくれるロマンチックなパートナーを求め、女性よりも短期間で性交渉の機会を求めることに時間と労力を費やしているというのである。ティンダーユーザーは一人でいる時も頻繁にこのアプリを使い、社会的反感を買うことなく拒絶したり興味を示したりできるので、男性は急速にスワイプに引き込まれるのである。

 結果的に女性や同性愛の男性の方がより多くマッチングが成立するのである。ティンダーで実施された最初の定量的研究の1つでは、研究者が魅力的な仮想のティンダープロフィールを男女同数だけ作成しアプリに応じた全員に「右スワイプ」し、マッチング成立数と、仮想プロフィールへのメッセージ数を記録した。 女性プロフィールのマッチング率が10.5%であったのに対し男性プロフィールは0.6%で、そのほとんどはゲイまたは両性愛者の男性からの返答であった。

 一方で女性はより多くマッチングに成功しているのに、必ずしも選び放題の状況を楽しんでいるわけではないのである。先の仮想ティンダーによる研究では、女性はマッチング成立後にメッセージを送信する確率が男性の3倍で、そのメッセージの長さは男性のメッセージのほぼ10倍なのである。(「最近どう?元気にしてる?」のような男性のメッセージ12文字に対し、122文字である)

 男性はより多くのメッセージを多数の潜在的パートナーに送るのに、一旦マッチングが成立すると努力を怠り献身的でないという傾向にあり、女性はマッチング成立の頻度を喜ぶ一方で進展を求め親密な会話をしようとして失望するのである。

◆絶望的な場所での愛
 ティンダーで愛を見つけることが不可能だと言っているのではない。2017年のティンダー利用動機に関する定量的研究は、ティンダーを利用する一般的な動機はカジュアルなセックスではなく愛であると結論づけた。私の自身の予備的データ(まだ精査を要する)も、この研究結果を反映している。私は何百人ものティンダーユーザー、その他の出会い系サイトユーザー、出会い系サイトを一切使わない人への調査を行い、裏切りや性的でロマンチックに満足した経験を比較した。

 ティンダーユーザーと他の2つのグループとの間には、付き合いを続けたい期間や最初のデートで性的関係を持つ可能性について統計的な違いは見られなかったが、ティンダーユーザーはロマンチックな出会いに対する不満を抱いていた。ティンダーユーザーは、アプリで出会ったロマンチックなパートナーに騙されたと感じることが多く、他の2つのグループよりも最初で最後となるデートでの全体的な満足度が低いのである。言い換えると、動機はそれほど違わないのに、スワイプを楽しんでいるユーザーの経験は、現実の世界での楽しい経験と同種ではないことを示している。

 愛とセックスは歴史的にベッドルームに紐づいているが、ティンダーのようなマッチングシステムのデータは性交渉の習性について有益な洞察を提供している。ティンダーは「デートの終わり」を導くと言う人もいるが、これまでにない斬新な性的行動パターンを生み出しているとは考えにくい。実際には、男女をよりジェンダーステレオタイプに行動させるだけで、むしろ後退だと考えられる。

 しかし、人々が従来の関係について無頓着になり、生活の中のテクノロジーに慣れてくれば、スワイプの魅力は邪悪な快感となり止められなくなるかもしれない。

The Conversation
This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by ohihs via Conyac
photo via flickr | Global Panorama

Text by The Conversation