欧州で車の大型化が社会問題に 駐車料金3倍や重量課税、自治体が規制強化

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「マンスプレッディング」という言葉をご存じだろうか? 電車で男性が大股開きで座り、他人が座るのを困難にする行為を指す言葉だ。これになぞらえ、大型化してスペースを占領する車に対し、「カースプレッディング」という言葉が使われている。実は欧州では、急増する大型車が社会問題化している。環境への負荷が高く、現地の事情に適さないことなどから、行政も対策せざるを得なくなっている。

◆スペースたっぷり実用的! 大型車が欧州を席巻
 BBCによれば、国際クリーン交通評議会(ICCT)のデータでは、欧州市場で販売される車の平均幅は2001年から2020年にかけて約10センチ拡大し、全長も19センチ以上伸びた。サッチャム・リサーチのデータでは、イギリスで販売される新型車の平均幅は2018年以降で5.5センチ拡大し、平均重量は227キロ増えた。ヤフー・ニュース・イギリスによれば、平均ボンネット高は2010年の76.9センチから83.8センチに上昇。2024年に販売された車両のボンネットのほぼ半数は、85センチ以上あった。

 最も人気が高いのが、SUVだ。イギリスでは、新車販売の62%を占めており、スペースが広く実用性が高いことで支持されている。自動車雑誌、オートカーの編集長によれば、高い位置からの視野の良さ、高速道路や広い道路での安全性、乗り降りの容易さなども人気の理由だという。業界情報サイト「ジャスト・オート」の編集長は、大型車は利益率が高くなるため、自動車メーカー側も販売に積極的だと述べている。(BBC)

◆課題山積み 欧州独特の事情も
 しかし、大型車が増えることでさまざまな問題が出てきている。その一つが、環境への影響だ。国際エネルギー機関(IEA)は、燃費効率と電動化の進歩にもかかわらず、より重く効率が悪いSUVのような車両は、平均的な中型車よりも20%多くの排ガスを発生させると指摘。電気自動車に移行したとしても、化石燃料由来の電力を使用していれば、大型車は小型車よりも多くの汚染を引き起こす可能性が高いとしている。

 大型車は乗る側にとっては安全である一方、他の車や歩行者にとっての危険は増大する。ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の研究では、子供がSUVでひかれた場合の死亡リスクは通常の3倍だと指摘されている。ベルギーの調査では、ボンネットの高さが10センチ増加するごとに、衝突事故で歩行者など脆弱な側が死亡するリスクは27%増加すると報告されている。

 米自動車専門誌『ザ・トゥルース・アバウト・カーズ』は、欧州には自動車が普及する以前から存在する町がたくさんあると指摘。こうした町の道路は狭く、人口密度が高くあまり郊外への広がりもないため、大型車が増えれば都市部の混雑を悪化させると説明する。「カースプレッディング」はアメリカでも問題化しているが、古い市街地以外では広い空間を確保できると主張している。それに比べて、欧州では対応できる余地がはるかに少ないと述べている。

 このほかにも、路上駐車が一般的な欧州では駐車スペースに収まりきらない場合が増えていること、重量増で道路へのダメージが大きいことなど、大型化の問題点が指摘されている(BBC)。

◆利用者が負担を 各国で規制強化
 大型車の増加を受けて、各国が対策を講じつつある。パリでは、1.6トン以上の大型車のビジター用路上駐車料金が2024年10月、住民投票を受けて3倍に引き上げられた。数か月後、市当局は重量級の車の路上駐車が3分の2減ったと発表した。(BBC)

 イギリスでは、カーディフ市議会が重量2400キロ超の車両向け駐車許可証の料金引き上げを決定。通勤者の駐車を減らし、持続可能な交通手段を促進する目的で、汚染度の高い車両に追加料金を課すものとなっている。ロンドン議会では、重量に応じた累進課税を自動車税に導入し、SUVの駐車料金引き上げを求める動きもある。(ヤフー・ニュース・イギリス)

 緑の党は、そもそもSUVは混雑した街中を走るのに適した車ではないと指摘。より大きく汚染度の高い車を選ぶなら、利用者が社会的コストを負担すべきだとしており、「カースプレッディング」に厳しい見方を示している。(同)

Text by 山川 真智子