欧米で消えつつある「ペットを売る店」――生体販売の問題点、日本の対応は
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欧米諸国を中心にペットショップでの犬や猫の生体販売を禁止・制限する国が増えている。「アニマルウェルフェア(動物福祉)」の考えが世界中に広がる中、日本では動物の尊厳を守るべきだとする考え方がまだ浸透していない。欧米では消えつつあるペットショップ。日本でも今後規制の強化が進むだろうか。
◆ペットショップに潜む、知られざる深刻な問題
欧州やオーストラリアで、ペットは「アニマルコンパニオン」、つまり家族の一員である。フランスでは、人間と一緒に地下鉄にも乗り、カフェでお茶を飲む飼い主の足元に座り、ともに時間を過ごす。
近年、各地で規制が進んでいる。アメリカ・ニューヨーク州は2024年12月15日からペットショップでの犬・猫・ウサギの小売販売を禁止し、フランスも同年1月1日から動物店での犬猫販売を禁じた。一方、アメリカ・カリフォルニア州は2019年以降、保護団体経由のみを認める形でブリーダー由来個体の店頭販売を事実上禁じている。イングランド(イギリス)では2020年に第三者による子犬・子猫の販売を禁止した。カナダは全国一律ではなく自治体での禁止が中心で、トロントやバンクーバーなどが先行している。このように、規制の範囲や手法は地域ごとに異なり、全面禁止や第三者販売禁止、出所制限、自治体条例などさまざまな形がみられる。
オンライン販売については、欧州を中心に規制や監視の強化が進む一方、違反や迂回的な販売が課題とされている。
規制が進む主な理由は、劣悪な環境での繁殖・飼育に加え、過剰繁殖による売れ残りの殺処分、衝動買い後の飼育放棄などとされる。
実際、フランスでは、バカンス期間にペットを捨てる飼い主が多いことでも知られており、動物保護団体によると、年間約10万頭のペットが遺棄されているという。動物愛護法改正は、ペットの衝動買いを抑制し、飼い主の勝手な都合でペットを捨てる現状を打破する目的もあった。
◆ペットショップでの犬猫販売のどこに問題があるのか
まずは、「パピーミル」「キトンミル」という、子犬・子猫を大量繁殖させる仕組みが元凶だ。「パピーミル」とは日本語に訳すと「子犬工場」。ペットショップで販売するため営利目的で、子犬・子猫を無責任に量産させる悪徳業者の存在である。現状、ペットショップで売られる子犬・子猫の多くが「パピーミル」「キトンミル」から連れてこられる。狭くて不潔なケージの中に何匹も詰め込まれ、えさも満足に与えられていない劣悪な環境で育てられている。近親交配によって障害や病気を持って生まれる子犬、子を産めなくなり殺処分になる母犬などの悲惨な実態があるにもかかわらず、日本の消費者にはあまり伝わっていない。
長年問題となっているこの「パピーミル」に反対する声が高まっていたにもかかわらず、法律の規制がなかなか進まなかったアメリカでは、人々の意識改革が必要であると考え、全米で「パピーミル」への抗議活動などが行われ、ようやく法制化につながった。
今の日本にもまだ多く存在するとみられる「パピーミル」。ペットフード協会の「全国犬猫飼育実態調査(2024年)」によると、犬の飼育数は推計約680万頭、猫は約916万頭だ。環境省の統計によると、2024年4月1日現在の犬猫等販売業は1万6886業者、そのうち繁殖を行う者は1万3362業者である。2023年度に全国の自治体が引き取った犬猫は4万4576頭、そのうち殺処分されたのは9017頭だ。「アニマルウェルフェア」の考えに基づいたペットショップ廃止運動は、日本ではまだ一般的ではない。
◆遅れる日本の動物福祉への取り組み
動物の命を軽視せず、売買をなくして保護犬猫の譲渡を推進すること、繁殖や飼育環境を改善するための法制化が必須であるが、日本では2019年に動物愛護管理法の改正により、マイクロチップ装着の義務化や繁殖における倫理的なガイドラインが強化されたにすぎない。
犬や猫をショーウィンドウに並べて販売する形態は欧州を中心に縮小しているが、日本や一部の国・地域では依然として店頭展示・小売が行われている。日本は動物福祉の取り組みが遅れているとの指摘があり、動物愛護の意識も欧米に比べ遅れているとの見方がある。
とはいえ、日本でも犬や猫の生体販売をやめるペットショップも現れ始めた。生体販売の代わりに保護犬や保護猫の譲渡会イベントを開催して新しい家族とマッチングさせることに尽力している。
そもそもペットショップで犬や猫を販売する必要性が問われている。ペットの日用品を扱ったり、トリミングやシャンプーなど、ペットとの生活を支えていく専門店としての役割を強める方向性もある。日本でも「ペットを売らないペットショップ」が今後増えていくだろうか。




