欧州のツナ缶に高濃度の水銀、NGO報告 規制値の問題も指摘

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 ツナサンド、ツナマヨネーズ巻きなど、ツナは手軽に食べられる魚の一つ。ところが、ツナ缶に規制値を超える水銀が含有され、健康上のリスクがあることがヨーロッパのNGOの調査でわかった。

◆ツナ缶の57%、一般的な魚の水銀規制値上回る
 フランスの海洋環境保護団体「ブルーム」および消費者保護団体「フードウォッチ」は、ヨーロッパの大手スーパーマーケットで販売されているツナ缶に高濃度の水銀が含まれているとして警鐘を鳴らしている

 ブルームは、フランス、ドイツ、イギリス、スペイン、イタリアのヨーロッパ5ヶ国の大手スーパーマーケットから148缶のツナを無作為に選んで調査した。

 欧州連合(EU)とイギリスの現行の水銀規制値は、マグロが1 ppm(mg/kg)、タラなどほかの魚が0.3 ppm(mg/kg)だが、独立機関による実験室での分析の結果、検査したすべてのサンプルから水銀汚染が検出され、そのうち57%が0.3 ppmを超えていた。

 パリのスーパー「カルフールシティ」の店舗で購入された缶詰のなかには、規制値0.3 ppmの13倍にあたる3.9 ppmという記録的な値を示すものがあった。

 報告書は、1970年代以降、公的機関と強力なツナ団体が、欧州の消費者の健康を犠牲にして、産業用ツナ漁の経済的利益を意図的に優先してきたと主張。団体のロビー活動の結果、タラなどほかの魚種よりも3倍も高い水銀許容値がマグロに設定されたと指摘している。

 世界保健機関(WHO)は、水銀をアスベストやヒ素と並んで、世界の公衆衛生にとって最も懸念される10の化学物質の一つとみなしており、人体に深刻なリスクをもたらすとしている。

 水銀は腎臓や神経系にダメージを与え、視力の問題を引き起こし、心血管疾患のリスクを高める可能性がある。WHOによると、妊婦と子供は高濃度のメチル水銀の影響を特に受けやすい。

 両団体は、メチル水銀の定期的な摂取は、たとえ少量であっても、深刻な健康被害をもたらし、特に胎児や幼児の脳の発達に悪影響を及ぼすと警告している。

◆学校や病院からツナ製品撤去要請
 ブルームとフードウォッチは、この製品が「公衆衛生に対する甚大なリスク」であることを調査結果が示していると主張。欧州委員会に対して、マグロの最大水銀含有量をほかの魚種に適用される0.3 ppmへの引き下げ、0.3 ppmを超える製品の販売と宣伝を防止するための「セーフガード条項の発動」を要請した。また、各国政府に対しては、学校給食、保育園、産科病棟、病院、介護施設でのツナを使ったすべての製品の禁止を求めた。さらに、欧州市場最大手の小売業者10社に対して、国際的な嘆願書を提出した。

 ユーロニュースによると、欧州委員会は、現在の最大レベルを1 ppm以下に引き下げれば、「食品供給を大幅に妨げること」になると述べた。また、「基準値が最大の最も汚染された魚を大量に摂取すると、1週間の許容摂取量を超える可能性がある」とも言及した。

 一方、欧州食品安全機関(EFSA)は2012年、メチル水銀の耐容週間摂取量(TWI)を体重1キロあたり1.3マイクログラムに設定した。アメリカではTWIが0.7マイクログラムに設定されている。

 18ヶ月に及ぶ調査を率いたブルームのジュリー・グターマン氏は「欧州の規制で定められている最大基準値を適用すると、体重79キロを超える人は、1人前を食べただけで危険にさらされることになる」と述べ、この設定を問題視した(ユーロニュース)。

 水銀は、火山の噴火や森林火災によって生態系に自然に存在する。しかし、水銀発生源の3分の2が、石炭や化石燃料の燃焼、ゴミ焼却場などによる人間活動によるものだ。水銀が海洋などに存在するバクテリアと相互作用すると、有毒で生物濃縮性のある化合物のメチル水銀になる。

 食物連鎖の頂点に立つ捕食者であるマグロは、獲物から重金属を蓄積し、その結果、より小型の魚種に比べて水銀汚染の割合が大幅に増加する。

Text by 中沢弘子