排泄物から航空燃料、英企業が製造へ 欧州でSAF義務化進む

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 イギリスの企業がし尿を含む下水から「持続可能な航空燃料(SAF)」の製造に乗り出すと発表した。欧州連合(EU)やイギリスは、今後使用する燃料の一部をSAFにすることを航空会社に義務づける方針で、人の排泄物を新たな資源として捉えるこの取り組みが注目されている。

◆驚くべき資源? 下水を燃料に
 新たなジェット燃料製造に着手するのは、イギリスのブリストルに本社を置くファイヤーフライ社だ。高圧高圧下で下水をバイオ炭と原油に変換するプロセスを開発している。格安航空会社ウィズ・エアーと組んで、エセックス州に商業用精製所を建設する計画を明らかにした

 ファイヤーフライ社は、試験的な精製所を建設する契約を、すでに産業界のパートナーと交わしているという。原料はバイオソリッド(下水処理施設で生成される汚泥)で、イギリス東部の上下水道の運営管理を行うアングリアン・ウォーター社から引き取る。

 ファイヤーフライ社のジェームス・ハイゲートCEOは、バイオソリッドの不快なイメージを認めつつも「驚くべき資源」だとし、下水をジェット燃料に変えることほどクールなことは、ほかにあまり思いつかないと話した(ユーロニュース)。

◆原料豊富! ほかより安価
 SAFを製造する方法はさまざまだが、従来のジェット燃料よりもかなりコストが高い。しかし、し尿をベースとする今回の燃料製造は、コストに見合ったメリットが期待されているという。

 原料となる使用済み食用油などの廃棄物には限りがあるが、下水はより安価で豊富であり、イギリス国内の航空会社が必要とする燃料の最大5%を供給できるとファイヤーフライ社のポール・ヒルディッチCOOは説明する。バイオソリッドは、国内に何百万トンもあり、本来価値はないものだと主張している。(ガーディアン紙

 イギリスのクランフィールド大学が実施したライフサイクル分析によると、ファイヤーフライ社の燃料は通常のジェット燃料よりも二酸化炭素排出量が90%以上少ないという。

◆すでに用途あり 持続可能とは言えない?
 もっともイギリスでは、大量の下水やバイオソリッドが肥料として農業に利用されているという。航空環境財団のケイト・ヒューイット氏は、廃棄物を含む代替燃料の原料について重要なのは、「使用しなければこの原料はどうなっていたのか」ということだと説明する(CNN)。必ず発生する廃棄物であることを考えれば軽視すべきでないが、すでに肥料として利用されているので素晴らしいことでもないという考えを示した(ガーディアン紙)。

 一方ヒルディッチ氏は、ほかの多くの国では、し尿を単に焼却処分していると述べ、ジェット燃料に変換することは、効率的な処分という点で、利点もあるとしている(ガーディアン紙)。

 ハイゲート氏は、燃料製造の過程で出るバイオ炭を肥料として使うことも可能だとし、同じ規模にはならないが、農家がバイオソリッドの代替品として使用することができると述べている(CNN)。

 EUでは2025年には2%、2035年には20%、イギリスでは2030年までに10%のSAF使用を航空会社に義務づける方針。すでに昨年11月に、廃食用油と動物性脂肪から作られたSAF 100%の燃料を使った商業便が、ロンドンからニューヨークに飛び立った。CNNは、バイオ燃料はその限界にもかかわらず、将来の航空分野で大きな役割を果たすだろうとしている。

Text by 山川 真智子