山火事で発がん性物質拡散の可能性、研究 気候変動でリスク増大

Ringo H.W. Chiu / AP Photo

 気候変動の影響により世界規模で多発している大規模火災。火災の煙には人体に有害な微小粒子状物質(PM2.5)とガスが含まれていることがわかっているが、今回、新たに火災後の灰の中に、発がん性物質の六価クロムが大量に含まれていることが明らかになった。

◆山火事の灰の中に発がん性化学物質検出
 カリフォルニア州北部で最近発生した山火事の灰の中に、発がん性のある六価クロムなどの化学物質が大量に含まれていたことが、新しい研究調査で明らかになった。この研究論文は12日、イギリスのネイチャー・コミュニケーションズ誌に掲載された。

 研究を率いたスタンフォード大学研究者らは、2019年と2020年にソノマ郡、ナパ郡、レイク郡を含む北カリフォルニア全域で発生した山火事の後の土壌を分析し、灰の中に危険なレベルの六価クロムが含まれていることを発見した。六価クロムは、金属を多く含む地質が下層にある地域や、火災がより激しかった地域で最も多く検出された。金属が少なかったり、火の勢いが弱かったりした地域、たとえば火の通過が早かった草原などでは、六価クロムの検出値はかなり低かった。

 六価クロムは、火災後の乾燥した気候によって土壌やちりの中に1年近く滞留していたことも明らかになった。

 さらに、風によって飛散した灰の微粒子中にも、危険なレベルの反応性六価クロムが検出された。研究者たちは、六価クロムが山火事の煙に混じって移動し、消火後に粉塵となって舞い上がり、その後何ヶ月にもわたって残留すると考えている。乾燥した環境では、この灰は風に乗って容易に人口密集地に向かって飛散するため、長期的な公衆衛生上の危険をもたらす可能性がある。

 クロムは人体に必須の元素であるが、それは三価クロムのみで、山火事の灰から検出されたクロムは、発がん性のある六価クロムだ。研究によると、200度以上の山火事の熱が、三価クロムを危険な形態である六価クロムに変化させるという。

 研究はカリフォルニアの山火事に焦点を当てたものであるが、土壌に重金属が多く含まれ山火事が頻発するアフリカ、オーストラリア、ロシアなど世界のほかの地域でも、同様の問題に直面している可能性があると研究者らは推測している。

 米環境保護庁(EPA)によると、六価クロムへの暴露は、人間や動物の肺がん、咳や喘鳴(ぜんめい)を含む急性障害、さらには高用量では胃腸や神経への影響に強く関連している。

Text by 中沢弘子