アマゾンで記録的な森林火災 ブラジル大統領「NGOが放火」、証拠は示さず

NASA via AP

 ブラジルの公的モニタリング機関が「森林火災が今年に入って急増している」との報告を出したことを受け、ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領は21日、同氏のイメージを悪化させる目的でNGOが放火を行っていると示唆する発言を行った。だが、それについての証拠は示していない。

 森林の破壊と火災を監視するブラジルの政府機関「ブラジル国立宇宙研究所(INPE)」は、ブラジル国内の今年の森林火災の発生件数は8月20日までの時点で7万4,155件という記録的な数字であり、昨年の同時期と比較して84%増加したと発表した。一方、ボルソナロ氏の大統領就任日は、今年の1月1日である。

「あえて断言はしませんが、おそらくNGO関係者が、ブラジル政府と大統領である私の印象を損ねるために、何らかの犯罪行為を行っているのでしょう。世界ではいま、ブラジルに対する戦争、つまり情報戦争が行われているのです」ボルソナロ氏は記者団に対し、そのように語っている。

 今年8月の初めには、「現政権のイメージを悪くする目的で森林破壊に関するデータを捏造した」との大統領からの批判に抗議したINPEの所長が、所長のポストを解任された。

 今年に入って発生した森林火災の最も大きな被害を受けているのは、アマゾン地域に位置するマットグロッソ州、パラ州、アマゾナス州の3州。発生した火災の41.7%がこの3州に集中している。

 アマゾン環境研究所の設立者の一人、パウロ・モウティーニョ氏は次のように語っている。「アマゾンで自然に火災が発生することはごく稀です。もちろん、まったく起らないわけではありませんが。実際に発生する火災の大部分は人間の手によるものです」

 アマゾンの森林で30年近く研究を続けてきた同氏によると、人が火を放つのは、農業や木材伐採を行う目的で広大な土地を更地にするケースがほとんどだという。とりわけアマゾン地域の乾季にあたる時期には、こうした火は制御不能となり、樹木が密集した森林保護地域にまで燃え広がってしまう。

 モウティーニョ氏によると、今年に関しては、アマゾン地域ではとくに深刻な干ばつは発生していない。「ですから、まだしも幸運だと言えます。もし仮に、今年が過去4年間と同じレベルの干ばつの年であったなら、状況はもっとひどかったでしょう」

 ボルソナロ大統領は過去に、気候変動防止に関するパリ協定から離脱すると脅しをかけるなど、環境保護に取り組む非営利団体を繰り返し攻撃してきた。それらの団体は、大統領にとって「自然保護地域を含めた国土開発を推し進め、ブラジルの経済的ポテンシャルを存分に発揮する上で障害」なのだ。

 ボルソナロ大統領とリカルド・サレス環境大臣は、議会内で力を持つ農村部選出の議員グループと近い関係にあり、アマゾン地域のさらなる発展と経済機会の追求をこれまで訴えてきた。2人は、現在の法制下でアマゾン地域は過剰に保護されていると考えている。

 一方、一部のNGOや環境保護の活動家、および有識者らは、INPEの最新データに示されたアマゾンでの森林破壊の急増は、ブラジル政府の開発促進政策がもたらしたものだと批難している。

 ブラジル政府はまた、「アマゾンの広大な熱帯雨林を違法な伐採や採掘活動から保護せよ」との国際圧力にも直面している。大気中の二酸化炭素の吸収体として非常に大きな存在であるアマゾンの森林は、しばしば「地球の肺」に例えて語られる。

 ドイツとノルウェーは、森林破壊防止へのブラジル政府のコミットメントが明らかに不十分だとして、ブラジルの森林における持続可能な林業プロジェクトに割り当てられる予定だった6,000万ドル以上の資金を凍結する決定を下した。

 また、フランスとドイツの首脳は、EUおよび南米の関税同盟「メルコスール」加盟国に対し、ブラジルとの間で貿易協定を批准しないよう強く要求している。それにより、気候変動防止のパリ協定の環境規定を遵守するようブラジルに圧力をかける狙いだ。

 専門家らは、過剰な森林伐採が地域の気象を変え、気温上昇と降雨の減少がもたらされた結果、その悪影響を最初に受けるのは結局のところブラジル人であり、とりわけブラジルの農民が最も被害を受ける可能性が高いと指摘する。

 一方、サレス環境大臣は8月21日、ブラジル北東部のバイーア州で5日間にわたって開かれた気候変動に関する国連ワークショップの檀上に立ち、会場の聴衆からブーイングを浴びた。そのサレス氏は今年初め、このイベントの開催を中止しようと試みていた。

 会場に集まった聴衆の中には、「エコサイド(生態系破壊)をやめろ!」「アマゾンが燃えている!」などと書かれたボードを振りながら抗議の叫びを上げる者もいた。

 そんななか、サレス大臣は「気候変動には対処していく必要がある」と簡単に述べるにとどめた。

 このイベントに出席したマヌエル・プルガー・ビダル氏は、「人々は、もっともっと多くのアクションを求めています。私たちはいま、危機的な緊急事態の真っ只中にいると多くの人が認識しています」とコメントしている。ビダル氏は以前、ペルーで環境大臣を務めていた。

 現在は非営利団体のWWF(世界自然保護基金)に勤務するビダル氏。「否定主義は決して支持されません」と語り、いま現在サレス大臣に向けられている批判が、最終的には気候変動に対するアクションを取る方向にブラジル政府を突き動かすこともありうるとの見解を示している。

By DIANE JEANTET Associated Press
Translated by Conyac

Text by AP