希少種セミクジラの歌声、初めて録音に成功 米研究チーム
ヒットチャートにはランクインしていないが、最先端の歌がある。
アメリカ政府の海洋生物学者らが、地球上で最も希少なクジラの一種、セミクジラの歌声の録音に初めて成功した。
アメリカ海洋大気庁(NOAA)の研究チームは、係留型録音装置を使用し、オスのタイセイヨウセミクジラの鳴き声が、あるパターンを繰り返している音声を録音した。
6月19日、NOAA漁業局の海洋生物学者であるジェシカ・クランセ氏は、どの個体群においてもセミクジラの歌を録音できたのは初めてのことだとシアトルで発表した。同氏はミナミセミクジラとタイセイヨウセミクジラの専門家に問い合わせ、その歌声が過去に記録されていないことを確認した。
クランセ氏によると、研究チームは8年に渡る調査の結果、ベーリング海アラスカ南西沖の5つの地点で、はっきりと違いのわかる4種類の歌を検知した。
セミクジラは30頭あまりしか生き残っていない。動きの遅いセミクジラは、捕鯨により絶滅の危機に追いやられ、殺されたセミクジラは現在も海面を漂っている。
ザトウクジラやホッキョククジラを始めとするその他のクジラは、歌うことで有名だ。2010年に行われた現地調査の期間中、NOAA漁業局の研究チームは、鳴き声の中に特定できない奇妙なパターンがあることに初めて気がついた。
クランセ氏は、「それがセミクジラのものかもしれないと思いましたが、実際に目で確認することはできませんでした」と言う。
そこで研究チームが録音装置の長期的なデータを見直したところ、ある音声パターンを繰り返していることに気がついた。クランセ氏によると、その音声が希少種であるセミクジラの発したものだという確証が得られず、7年に及ぶ挫折を繰り返した。
大きな進歩が得られたのは2017年。クランセ氏の研究チームは、ブイに付けた録音機からリアルタイムでクジラの歌が聞こえてくることに気づいた。研究チームは、最大4つの録音機から音声を受信し、それを音の発信源に向けられるようにしている。そのため、歌声を発しているクジラの場所を三角測量で計測することができた。そして過去の調査や遺伝学の研究結果と照合し、発信源をオスのセミクジラと特定した。
「発信源がセミクジラであり、歌っているのがオスのセミクジラだという確証をついに海上で得られたというのは喜ばしいことでした」とクランセ氏は言う。
セミクジラは、様々な鳴き声を発する。代表的なものは、銃の発砲音に似ている。また、元気な声や、沈んだ声、うめき声、叫び声、さえずりのような鳴き声も発する。
クランセ氏がアメリカ音響協会の学会誌に寄せた論文によると、一連の鳴き声が、あるパターンをはっきりと認識できるような一貫性を持っており、それがリズミカルなパターンとなっていなければ歌とは認められない。
「これは定型的かつ規則性を持って何度も繰り返し再現される、一連の鳴き声です」とクランセ氏は言う。
同氏によると、セミクジラの歌は、タイミングと音数という点でタイセイヨウセイウチの歌と構造的に似ている。セイウチの場合は銃の音ではなくドアをノックするような音を発するが、いずれも大きく弾むような歌だ。
しかし今回の発見は、謎を解明するよりも多くの疑問を投げかけるものだとクランセ氏は言う。
クランセ氏は「歌うのはその個体群だけなのか、その他の種や個体群にも起こることなのか?」という疑問を挙げている。
「セミクジラはほんのわずかな個体しか生存していないので、もっと頻繁に鳴き声をあげるか、歌を歌う必要性を感じている可能性があります。まったくの憶測ですが、セミクジラはどこかザトウクジラの真似をしているのかもしれません。私たちが研究しているセミクジラは、ザトウクジラとの関連性をよく指摘されています」とクランセ氏は言う。
ベーリング海の遠さは、セミクジラの研究を困難なものにしている。セミクジラの生息範囲もいまだ解明されていない。NOAA水産局の研究チームは数年の間、夏の現地調査でセミクジラを1頭も目にしていない。研究チームは、2017年にセミクジラだと特定した個体を子供のクジラと推測しているが、ベーリング海でセミクジラの親子が泳ぐ姿を最後に観測したのは2004年のことだとクランセ氏は言う。
クランセ氏によると、歌っているオスはメスの気を引こうとしている可能性がある。
「30頭しか生存していない中、パートナーを見つけるのは難しいに違いない」と同氏は言う。
By DAN JOLING Associated Press
Translated by t.sato via Conyac