弱者を知る有料ツアー、スイスで話題 ホームレス経験者らがガイドに

Fotos @ Ruben Hollinger(ツアーのガイドたち)

 経済的に豊かな国として知られるスイスにも、最低限の生活費を稼げない人たちがいる。職場の過剰なストレスを解消しようとしてアルコール依存症になった人、離婚を機に薬物に依存するようになった人、勤務中の事故と離婚が理由でホームレスになった人、旅行中の事故のため長期間働けず自営で負債を抱え自己破産した人、一流企業から解雇され、その後、健康上の理由でパート勤務も難しくなった人など、事情は人それぞれだ。

◆毎月の生活保護額は約10万円
 生活保護を受給している人もいるが、さまざまな理由から受給申請しない人も多い。高級日刊紙NZZによると、現在、人口の3%にあたる27万5千人が州や市町村から受給している(これに加え、難民申請者や難民認定者7万人の生活保護費は国から出ている)。就労可能な年齢で受給している人の約3分の1は、仕事に就いているものの十分に稼げていない、いわゆる貧困層だ。

 25歳以上の単身者には986フラン(約10万8千円)が毎月支給され、4人家族の毎月の基本額は2110フラン(約23万円)となっている。

 スイスには生活保護を受けていてもいなくても、こういった人たちが無料でまたは非常に安い値段で食事ができる場所や泊まれる場所があり、少しでも働けるようにとスキルを教える施設もあり、ホームレスの場合は、住んでいる場所を定期的に訪れて会話する人もいる。心身の治療も受けつける。サッカーやコーラスなど余暇活動もオーガナイズする。

 これらの援助は、自治体、教会、財団、民間団体などが行っている。通常のカフェやレストランのなかにも社会的弱者には特別に無料で飲食を提供するところもある。こういった施設はおもに都市部に点在しているが、世間一般では、あまり気に留められていない。

Text by 岩澤 里美