ヨーロッパ最古の湖 生物多様性が消滅の危機
著:Elena Nikolovska マケドニアのガリシカ国立公園で、スキー場ならびに道路を建設する計画が持ち上がっている。そのため、100種以上の希少生物種や固有生物種の絶滅が危惧されている。また、ヨーロッパ最古の湖の生態系も危険にさらされている。
2015年8月下旬マケドニア政府は、オフリド湖およびガリシカ国立公園内における市街地造成10ヵ年計画を告知した。これを知った国際科学コミュニティーおよび多くのマケドニア国民は驚愕を隠せなかった。市街地造成工事は、ガリシカ国立公園の中心部で開始されることになる。この国立公園は、世界にもうわずか15しか残っていない国境隣接区域生物圏保護区のうちのひとつ、プレスパ・オフリド国境隣接区域生物圏保護区の一部だ。他に類を見ないガリシカ国立公園はまた、あたり一帯に広がるユネスコ世界遺産の一部でもある。
ガリシカ地区では、5330種以上の様々な動植物の存在が確認されている。そのうち114種はガリシカ地区に固有の種であり、この地区以外には世界のどこにも存在しない。1500種以上のチョウとガが、ガリシカ地区の草原に生息している。その内のアポロウスバシロチョウ(Parnassius Apollo)は絶滅の危機に瀕している。もう一つこの地区で魅力的な存在は、Crocus Cvijiciiと呼ばれる小型のクロッカスの花である。この植物は、アポロウスバシロチョウと同様に国際自然保護連合(IUCN)から危急種に指定されている。
スキー場、高速道路、および観光客誘致地区3箇所をプレスパ・オフリド国境隣接区域生物圏保護区内に建設するとする政府の最近の決定は、地元の環境保護活動家やマケドニア国民にショックを与えた。ショックを受けた人たちの何人かは、マスコミに訴えたり市街地造成計画に反対する請願を政府に突き付けたりして反対運動を展開することとした。
ガリシカ国立公園管理計画のための戦略的環境アセスメントの最終公聴会で、このアセスメントの立案者の一人、エリザベス・バン・ズィル氏は、線引きの見直しが必要な地域もあると述べた。そして彼女は、線引き見直しの対象となった地域は保護強化区域(ZAM)から持続的利用区域(ZSU)に格下げし、ZSUの区域内で、計画されている基盤整備を進めるべきだと提案した。合計して約604ヘクタールが、ZAMからZSUへと格下げされる。
バン・ズィル氏は、上記のような提案をしているが、可能ならば線引きの見直しは避けるべきだとも述べている。
ZAMからZSUへの格下げは、最後の手段であり、時と場合が許すならば避けるべきです。
貴重な生物多様性が消失するため、その埋め合わせをする措置が予定されている。開発計画により貴重な種が失われる恐れのある公園内の区域については、マケドニア国内ならばいずれの場所でもよいから同種の生物が存在する区域をさがし、そこを新たに国立公園に指定するのだ。
「この計画に伴う問題は、気候変動が景観を様変わりさせてしてしまういうことにある。現在茂っているカシの木は、1年もすればブナの木にとってかわられてしまう恐れがある。こういったことから、政府の計画は全く無用なものといえる」と、地元の環境保護活動家、ラゾ・ナウモスキー氏は語った。
これは、議論の的となっているオフリド地域の自然遺産及び文化遺産が抱える幾つかの問題のうちの1つにすぎないように見えるが、マケドニアは、この遺産に対する生態学的大惨事を抱えこむことになる恐れもある。なぜなら、プレスパ湖、ガリシカ山、およびオフリド湖は、互いに密接に結びついているからである。ケルン大学の専門家が最近行った調査によると、オフリド湖は120万年以上前にできたもので、ヨーロッパでは最古のものである。
「オフリド湖の湖水は、40の泉から流れ込んできたものである。17の泉はマケドニアにあり、残りはアルバニア側にある。これら泉から出る水の多くは、栄養分を豊富に含み、PH値が不安定である。しかし、ガリシカ地区の泉の水は、カルシウム分を多く含んでいる。そのことがオフリド湖の水質バランスを保つ要因となっている。ガリシカ山は、石灰岩で構成されているので、プレスパ湖とオフリド湖は地下で繋がっている。そのため、プレスパ湖の水はオフリド湖へ流れていくことができる。政府の開発計画は、マケドニア内の3つの自然湖のうち2つを危険にさらすことになろう」と、ラゾ・ナウモスキー氏は語った。
オフリド湖湖岸の3地区でも観光客誘致計画が策定されている。リゾート地、高級ホテル、および人工ビーチが、湖岸沿いのアシ原にとってかわるだろう。このアシ原は、フィルターの機能を果たし、かつ湖水および湖に生息する動物へ栄養分を供給する機能を果たしている。そのため、開発が規制されている区域である。
「建設工事、生活基盤の増大、および大量に押し寄せる観光客により、湖岸線及びそれに沿って生えるアシ原が破壊されてしまえば、湖へ流入する栄養類が増大することとなる。そのことは、やがてオフリド湖固有動物の生息地を大幅に破壊する原因になるといえる」と、ケルン大学地質学および鉱物学研究所のベルント・ワグナー博士は語った。
政府の開発計画により絶滅の危機にさらされる恐れのある動植物に関する注意喚起を行うため、民間主導の「オフリドSOS」という組織は、国際規模の請願を開始するとの声明を発表し実行に移した。この請願にはすでに全世界から、250名の専門家が賛同の署名をしている。そのほか、マケドニアを訪れた旅行者、多くの人にオフリド湖の重要性を認識させるよう尽力した世界の科学者も賛同の署名をしている。
マケドニアにおける今までの都市化の過程を振り返ってみると、首都スコピエは2012年以降増大した建設事業のせいでヨーロッパで一番大気汚染がひどい都市となっている。この事実をふまえると、この国の自然の宝庫は深刻な危機に瀕しているといえる。マケドニアは、ユネスコ世界遺産認定以上の、もっとずっと大きいものをオフリドで失おうとしている。
This article was originally published on Global Voices(日本語). Read the original article.
Translated by Masato Kaneko.
Proofreading:Takako Nose.