ロヒンギャ難民の無人島移住を計画するバングラデシュ、国際人権団体が反対

AP Photo / Manish Swarup, File

 国際人権組織「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は8月6日、深刻な洪水の恐れのある小さな無人島にロヒンギャのイスラム教徒難民を移転させる計画を中止するよう、バングラデシュ政府に対して強く要請した。

 タイのバンコクで発表された同組織の報告書によると、現在バングラデシュ国内にある既存の難民キャンプには、約70万のロヒンギャ難民が暮らしている。国際的な専門家らによると、キャンプに隣接した地域に今よりも良好かつ安全な場所を6ヵ所特定しており、25万人以上の難民を移転させることが可能だという。

「すべての難民の健康と福祉を考慮すると、自然災害のリスクが少なく、十分なインフラを備えた人口密度の低い収容キャンプに相当数の難民を移転させることが不可欠です」とヒューマン・ライツ・ウォッチの関係者は話した。

 ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、バングラデシュ政府は間もなく、同国内のブハシャンチャールと呼ばれる無人島に10万人の難民を移動させる計画だ。しかし、洪水の危険性に加えて、無人島の孤立した環境と移動の不自由さから、そこは事実上の「移民拘置所」に変貌してしまう恐れがあるという。

 バングラデュには、過去に何度も難民の波が隣国のミャンマーから押し寄せている。最近では、昨年8月25日にロヒンギャ武装勢力がミャンマーの治安要員に対して攻撃を仕掛け、その直後に大量の難民がバングラデシュに流れた。当時ミャンマー軍は、武装勢力を掃討するだけに留まらず、ロヒンギャの村々に対する「焦土化作戦」をもってこれに対応した。そこでは強姦、殺人、拷問、ロヒンギャ民家の焼き討ちなど、様々な人権侵害が広く行われたと伝えられ、ミャンマーは国際社会から非難を受けた。この一連の騒乱で、数千人が死亡したと見られている。これ以前にも、規模はそれより小さいものの、やはりミャンマー国内での暴力と差別が原因で、2012年から2015年にかけて20万人以上ものロヒンギャ住民がミャンマーを脱出した。

『バングラデシュは私の祖国ではない』と題された今回の報告書は、ミャンマー国境に近いバングラデシュ東部のコックスバザール県に位置する、世界最大の難民キャンプと言われる過密な「クトゥパロン・バルカリ難民キャンプ」に住むロヒンギャ難民たちが直面する問題を取り上げている。

 報告書によると、この難民キャンプは不安定な状態にあり、難民たちは伝染病蔓延のリスクや、火災、コミュニティ内の対立やトラブル、家庭内暴力や性暴力のリスクに常にさらされており、次のように述べている。「難民自身と援助機関によって、住居の補強と、今より安全なインフラの整備や治安維持のための努力が行われているものの、依然としてこの難民キャンプの人々は、壊滅的な自然災害に対して非常に脆弱である」

 しかしバングラデシュ政府は、難民キャンプはあくまでロヒンギャたちが祖国ミャンマーに戻るまでの一時的なものに過ぎないと主張している。これに対しヒューマン・ライツ・ウォッチは、「長期滞在への道を開きかねない、サイクロンにも耐えうる強固な建物を含めた恒久的建造物の建設を拒んでいるのだ」と語った。

 また報告書によれば、難民の目下の移動先とされるブハシャンチャール島は、専門家に言わせると「満潮時に強いサイクロンに襲われた場合には、島が完全に水没する危険性」があり、「難民を住まわせるにはまったく適していない」という。

 その上で報告書は、現在のクトゥパロン・バルカリ難民キャンプとは別に、そのすぐ西側に位置する地域に難民キャンプにより適した土地が6ヵ所あり、そこには26万3,000人が居住可能だと指摘した。

 ヒューマン・ライツ・ウォッチは、各国政府と国際機関に対し、バングラデシュに対する人道援助の提供を呼びかけるとともに、ロヒンギャ難民の祖国への安全かつ持続的な帰還に向け、ミャンマー政府に圧力をかけるよう求めた。

 イスラム教徒のロヒンギャは、仏教徒が多数派を占めるミャンマーにおいて国家的・社会的な差別を受けており、そこでは彼らの市民権や、その他の基本的人権がほとんど認められていない。すでに数世代前からミャンマーに定住しているロヒンギャ住民が多いにもかかわらず、現在に至るまで、彼らは単なるバングラデシュからの移民として扱われている。

By JERRY HARMER, Associated Press
Translated by Conyac

Text by AP