北極圏で今何が起きているのか? 気温上昇、海氷減少、寒気の南下
ここ数年、北極圏の気温が極端に上昇している。この影響で、欧州では2月下旬に大寒波が到来し、市民生活に大きな影響が出た。北極圏の氷が溶けることによるさまざまな被害も懸念されており、専門家は対策を求めている。
◆溶ける氷、上がる温度。北極圏で続く悪循環
CNNによれば、グリーンランドの北端、モリス・ジェサップ岬の気象観測所の算出では、グリーンランド東部と北極圏中心部では、2月からの気温が、シーズン通常の気温を平均で約15度も上回っているという。デンマーク気象研究所の算出では、北極圏の気温は-8度で、通常よりも20度ほど高くなっているとされており、氷点下を上回る日も記録的な日数となっている(ロイター)。
北極圏の気温が上がったのは、海氷が減少したためだと専門家は見ている。米National snow and Ice Date Centerによれば、通常に比べ、2月下旬の北極海の海氷はかつてないレベルまで減少しており、エジプトの面積と同サイズの氷が消えてしまった計算だという。海氷がなくなれば、露出した海水は熱を大気中に発散する。これにより、ジェット気流が蛇行し、冷たい空気をより南へ、温かい空気をより北へ向かわせるとノルウェーの北極研究所のNalan Koc氏は説明している(ロイター)。
CNNは、大気と海水の温度が上がれば北極圏の氷はより減少し、その結果さらに大気と海水の温度が上がるという悪循環が今起こっていると指摘している。
◆冷たい大陸、暖かい北極圏。いまやニューノーマル?
2月下旬には欧州にシベリアからの冷たい空気が入り込み、「東からの獣」と呼ばれる大寒波をもたらした。世界気象機関は、北極上空の成層圏が突然温まり、「極渦(低温な上層の低気圧)」が割れて、冷たい空気が南へ溢れだしたことが原因だとしている。ワルシャワやオスロなどでは、北極圏を下回る気温が観測された。
氷河学の専門家、ジェイソン・ボックス教授によれば、近年ではローマのような温暖な場所でも雪に覆われることもあり、ここ10年間は、「冷たい大陸、暖かい北極圏」のパターンが見られると指摘している(CNN)。
北極圏の変化に、専門家は警鐘を鳴らす。テキサス工科大学のキャサリン・ヘイホー教授は、1890年以来、海氷が減少する北極圏は他の地域の2倍の速度で温暖化しているとし、これは人間の活動がもたらしたものだと述べる。(米公共ラジオ網NPR)。国連環境計画のエリック・ソルハイム氏も、異常気象には主に化石燃料を燃やすことから出る温室効果ガスの蓄積が関連していると見ている。(ロイター)。
一方、北極の暖かさが、人類の活動によるものなのか、自然な変動なのかを解明するにはデータが乏しいとロイターは述べる。北極に温度計は設置されておらず、衛星による測定も始まったのは1970年代後半からだ。「冷たい大陸、暖かい北極圏」についても、研究者の間で議論と調査が続いているという。
◆市民生活、さらに人類存続にかかわる問題。対策は急務
ワシントン・ポスト紙によれば、温暖化により北極圏の永久凍土層が溶け、閉じ込められた古代の炭素が、微生物によって分解され、二酸化炭素やメタンとなって放出されるという予測もある。また、永久凍土層に閉じ込められたバクテリアやウィルスが活動を開始するという不安なニュースも報じられている(アトランティック誌)。
ヘイホー教授は、氷が溶けることで影響を受けるのはシロクマだけではないとし、我々自身の食糧、飲料水、エネルギー、経済、安全保障、健康などに関わる問題だと述べている。同氏は早期の対策を求めており、地球温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」離脱を決めたアメリカのトランプ大統領に対しては、現実を無視すれば市民の側に深刻な影響が出ると警鐘を鳴らしている(NPR)。