消費税×増税×影響 海外の反応まとめ

 消費税増税は日本経済にどのような影響を与えるのか。

 安倍首相は、来年の10月に予定される消費税率10%への引き上げを先送りする方針を掲げた。この発言を機に、世界中の有識者が過去行われた消費税増税の効果を振り返り、今回の10%増税について激しい議論を巻き起こしている。

 森信茂樹・中央大学法科大学院教授/東京財団上席研究員は、経済政策として消費増税を先送りすることは、アベノミクスの失敗の始まりだと考えている。一方で、著名なノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン氏は、消費増税以上に景気回復に注力すべきであると警鐘を鳴らしている。
 
 IMFは、消費税率引き上げによる内需への打撃を危惧しながらも、財政の健全化のため、来年、予定通り税率引き上げを行うことが極めて重要だとしている

 以下、昨今の主要な海外の反応をまとめる。

1)消費増税見送りは、アベノミクス失敗の始まり…社会保障・税一体改革の原点に返れ

 森信茂樹・中央大学法科大学院教授/東京財団上席研究員は、経済政策として消費増税を先送りすることは、アベノミクスの失敗の始まりだと考えている。

 同氏は、消費税率引上げ延期論に反対する論拠として、今回の消費税率引上げは、社会保障・税一体改革として行われたもの、つまり、少子高齢化の下でわが国の社会保障を持続可能なものにすることや、社会保障の財源を後世代の若者につけ回しするのではなく、可能な限り現役世代で責任を持ってまかなうようにすることが重要であると主張している。

(同氏は、今生じている日本経済のもたつきの原因は、消費税8%への引上げの影響だけではないと主張する。アベノミクスの第1の矢により円安になっても、経済構造の変化から輸出が伸びない点や、第2の矢である公共事業を追加しても、資材や労働者不足から事業が進まない点に加えて、第3の矢である成長戦略がほとんど着手されていない点を問題視している。)
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2)消費増税延期なら、社会保障の充実は不可能…ポピュリズムに走らず、財政再建への一歩が必要

 田中秀明・明治大学公共政策大学院教授は、消費増税を予定どおり実施するべきと考えている。増税による短期のデフレ効果を許容しつつ、中長期には、政府の政策遂行の信頼性を高めることにより、社会保障の充実を図り、そして財政健全化と持続的な成長を両立させるべきであるとのこと。

 加えて同氏は、そもそも消費増税の目的は社会保障の充実のためであると強く主張。自民党が公言する経済成長による税収増を当てにすることは、非現実的な考えであり、ポピュリズムそのものであると強く批判している。

(消費税増税に関する意見は多種多様ではあるが、今政府がなすべきことは、消費増税の必要性を改めて国民に説明し、中長期の財政健全化と経済成長に向けて、確固たる姿勢を示すことであろう。)
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3)「8%消費増税で景気悪化」は煽り過ぎ…トレンド成長率を踏まえ、10%増税が必要

 小黒一正・法政大学准教授は、経済成長の実力を意味するトレンド成長率を考慮せずに、8%の消費税増税の効果を議論することに警鐘を鳴らしている。なぜなら、消費増税による反動減の大きさは、実質GDPのトレンド成長率の影響を除いて評価する必要があり、近年のトレンド成長率から見て今回の反動減は過度に大きいとは言えないからである。

 また、同氏は現実の政策は不確実な見通しや不完全な情報の中で決定しなければならなく、経済動向を十分に注視し、トレンド成長率も鑑みたうえで、10%の消費増税が必要であると説く。

(消費増税の先送りを行う場合は、財政安定化に必要な最終的な税率をどの範囲に留めるかといった視点も重要である。米アトランタ連銀のブラウン氏らの研究では、もし日本経済がデフレを脱却し、2%インフレを実現した場合でも、今後5年置きに段階的に消費税率を5%ずつ引上げていくシナリオでは、ピーク時の税率は32%にも達する可能性を示唆している。)
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4)クルーグマン教授、“消費増税で国債暴落”論を一蹴 デフレ対策徹底を首相にも直言

 ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン氏はニューヨーク・タイムズ紙の連載コラムで、消費税率引き上げを予定どおり実施するべきか否か、という論争では、賛成派・反対派のどちらも、この問題を「信用」に関わることだと捉えている。その上で、自国通貨で借金をし、かつインフレ圧力に直面していない状況の日本が消費税増税を皮切りに国債が暴落することはあり得ないと主張している。

 それ以上に、デフレ対策への信用を失うことのリスクは、財政への信用を失うことのリスクより、はるかに悪いことのように思える、と氏は述べている。

(ブルームバーグによると、日銀の発表後にエコノミストを対象に行ったアンケート調査で、10人中9人が、安倍首相は予定どおり引き上げを実施すると予想していた。今後の消費税増税を考えるうえで、政府が正しいデフレ対策を講じることができるか否か、注目すべき論点である。)
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5)消費増税より景気回復に集中しろ! ノーベル賞クルーグマン教授が提言

 ノーベル賞経済学者ポール・クルーグマン氏は、ニューヨーク・タイムズ紙ウェブサイトの連載ブログで、日本は消費税率10%への引き上げを敢行すべきではないことを、はっきりと主張した。

 今年4月の消費税引き上げは、アベノミクスの勢いに深刻な打撃を与えた。その後、経済成長はいくらか回復してきているものの、いま勢いを失うのは、非常にまずいことであり、景気回復が急務である、と同氏は指摘する。

(所費税増税は、日本国債にも影響を与えそうである。ロイターによると、来年10月の税率10%への引き上げに関しては、予定通り実施された場合、景気回復のチャンスを押し潰すようなら、日本の格付けにとってプラスとは限らない、とスタンダード&プアーズ・レーティングズ・サービシズ(S&P)ソブリン格付けディレクターの小川隆平氏が語っていた。)
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6)景気悪化しても、消費増税すべき…IMFが日本に提言 構造改革と追加緩和の行方に世界が注目

 ロイターによると、IMFは、日本は再度の消費税率引き上げによって、内需に大きな打撃を受ける可能性がある、と警告している一方で、それでも財政の健全化のため、来年、予定通り税率引き上げを行うことが極めて重要だとしている。

 ロイターはIMFが行った日本の経済成長率予想の下方修正について、4月の消費税率引き上げの影響が想定以上に大きかったためであるとする一方で、緩やかなペースで回復が進んでおり、影響は一時的なものと考えられると主張している。

 フィナンシャル・タイムズ紙も、日銀により行われた会合で、日本経済の景気の基調判断を下方修正したことに触れている。
 
(世界中の機関が、消費税増税が日本経済に短期的にはマイナスに働くであろうと予想している。日本経済が回復基調に乗るためには、消費税増税による反動減を上回る経済成長を目指し、アベノミクスの3つ目の矢をさらに推し進めるほか、金融緩和を拡大することも検討すべきであろう。)
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Text by NewSphere 編集部