インディペンデント文化のその後

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 2008年のリーマン・ショックを起因にアメリカを襲った大不況は、たくさんの大企業をリストラ、悪いケースでは閉業に追い込んだ。そしてそのあと、インディペンデントな食のアルティザン(職人)、レストランやコーヒーショップ、ブランドが登場した。コミュニティ志向の強いブルックリンやポートランドの存在がクローズアップされ、その思想やデザインがメインストリームのカルチャーに影響を及ぼすようになった。そうしたことを『ヒップな生活革命』という本にまとめてから5年経った今、インディペンデントである、ということの複雑さを感じずにはいられない。あの本で取り上げた、あるいは同じ頃に登場したブランドのその後のストーリーに、悲喜こもごもの展開があるからだ。

 たとえば、オンラインのマーケットプレイスとしてデビューし、公益を目指すBコープの認定を受けて、ヴィンテージの売り手や少量生産の作り手に直販の機会を与えた〈エッツィ〉は、工場生産で作られた商品を売れるようにするという大きな方向変換をしてユーザー離れを引き起こした。さらに、株主に利益をもたらす代わりに公益を尊重するというBコープの理念に反するはずの株式公開(IPO)を2015年に敢行して、資金を調達したはいいが、最終的には、そのプロセスで組織された経営陣によってファウンダーが職を追われる結果になった。今もサービスは稼働してはいるが、かつての輝きを認めるのは難しい。

 大手企業の傘下に入るブランドも登場した。ニューヨークを拠点に、天然素材だけを使って作るケチャップで人気を博した〈サー・ケンジントン〉が2017年にユニリーバに買収され、その数カ月後に、サードウェーブ・コーヒーという文化の先駆けとなった〈ブルーボトル・コーヒー〉がネスレに買収された。2018年には、斧から始まったキャンプグッズのブランド〈ベストメイド〉が、サステイナブルな素材開発のスタートアップ〈ボルト・スレッズ〉に買収された。

 こうした買収は、インディペンデントに生まれた文化に金銭的価値が付帯するようになったうえ、大企業やベンチャー・キャピタリストたちがそのバリューを認めるようになったことを示唆している。インディペンデントな企業を買収することで、自らの企業イメージを向上させることができるし、少量生産のものを好む洗練された消費者たちにリーチすることもできるのだ。

 こんな買収のニュースが世の中を駆け巡ると、必ずや地元のコミュニティや古いファンたちからがっかりする声が聞こえるものだけれど、今の世の中、「大手による買収=悪」と決めつけるのは早急な気もしている。

 2000年にユニリーバに買収されたアイスクリームの〈ベン&ジェリーズ〉のように、買収されたあとも同じ理念を維持するのに成功する企業もあるし、逆に、こうした文化を取材するここ数年のあいだに、インディペンデントのブランドがキャッシュフロー難に陥るのをたびたび見てきた。商品を増やそうとしたり、組織の規模を拡大させようとしたりするとき、資金繰りが必要になる。実際、この間に、人気を博しながらも、その段階を乗り越えることができずに消えていったブランドもいくつもあるのだった。

 自宅のキッチンで作り始めた発酵ドリンクがブレイクして食のブランドになった作り手が、「幸せな買収の形もある。少量生産の食のブランドは、誰だって買われたいと思っているはずだ」と漏らすのを聞いたことがある。大企業のカフェテリアから注文が入る程度には成功しているのに、生産の規模を拡大するための資金がないため、いつもギリギリの状態にあると言っていた。

Text by 佐久間 裕美子

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