「相手の遺伝子をコピーして子を産む」 アリ界で進むクローン技術
画像はイメージ( slgckgc / Flickr )
ヨーロッパ南西部のイベリア半島に生息する女王アリが、自種ではないオスを「クローン」のように生み出すという前例のない繁殖戦略が明らかになりました。
この成果は英科学誌『Nature』に報告されています。
クローンを生み出すアリ
研究チームは、シチリア島で採集したアリの巣を遺伝子解析しました。
その結果、同じ母親から生まれた兄弟アリのうち、一方は母と同じイベリアジャコウアリでしたが、もう一方は約500万年前に分岐した別種のアリ、ストゥルクトルジャコウアリの遺伝子を持っていることが判明しました。
本来、アリのオスは未受精卵から生まれ、母親の遺伝情報だけを受け継ぎます。
しかし今回の研究では、イベリアジャコウアリの女王が自分の遺伝子を使わず、体内に保存していたストゥルクトルジャコウアリの遺伝子だけを取り込むことで、そっくりそのまま別種のオスを生み出していることが分かりました。
いわば「相手の遺伝子をコピーして子を産む」という仕組みです。
こうして生まれたストゥルクトルジャコウアリのオスと交配することで、女王は両方の遺伝情報を持つ雑種の働きアリを生み出します。
一方、新しい女王をつくる際にはイベリアジャコウアリのオスを用いるため、血筋そのものはイベリアジャコウアリとして保たれ続けます。
この繁殖戦略は「異種生殖」と呼ばれ、女王が「異種のクローンオスを自給し、それを利用して働きアリを作る」というユニークな仕組みを持つことを意味します。
研究者は、この方法によって女王が数百万年にわたり安定してコロニーを維持してきた可能性が高いとみています。
この発見に対して世間では、「自然は人間の定義にとらわれない」「アリの世界は想像以上に奇妙だ」といった驚きの声や、「これは最も面白い学術論文だ」「種の概念そのものが揺らぐ」といった感想も。
また、「生物学は思っている以上に複雑で、単純な二分法では説明できない」とする指摘もあり、研究の衝撃の大きさを示しています。




