深海最深部「ハダル帯」に多様な生物群集 有人潜水艇が撮影に成功
画像はイメージ( Stephen Darlington / Wikipedia Commons )
西太平洋北西部の海溝で実施された中国主導の深海調査で、水深9,000mを超える地点に生息する多様な生物群集が観察されました。
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この成果は、英科学誌『Nature』に掲載されています。
海溝で生物群集を発見
調査は全長2,500km以上にわたり、水深5,800〜9,533mの範囲で行われました。
有人潜水艇「奮闘者(Fendouzhe)」を使用し、最大10km超の深度で数時間にわたり観測が可能でした。
観測地点は、アビサル帯(Abyssal Zone)よりさらに深い「ハダル帯(Hadal Zone)」と呼ばれる領域で、完全な暗黒の世界です。
今回調査した場所の一部はアラスカとロシアの間に位置する深海溝で、極めて細長い地形が特徴です。
中国科学院深海科学与工程研究所の研究チームは、ハマグリの群生や氷のように見えるバクテリアのマット、チューブワームの群落など、「繁栄する生物群集」を撮影。
これらの生物は光の届かない高圧環境下で、海底の割れ目から湧き出る硫化水素やメタンなどの化学物質をバクテリアが分解してエネルギーに変える「化学合成」に依存しています。
こうして生まれたエネルギーが食物連鎖の基盤となり、超高圧に耐える殻を持つ軟体動物など、多様な生物が生息しています。
今回の観察では、これまで記録されていなかった種も確認されました。
研究者らは今後、これらの生物が高圧下で生きるための適応の仕組みや、化学物質をエネルギーに変換する過程を解明する予定です。
深海生態系に詳しい英スコットランド海洋科学協会のアンドリュー・スウィートマン教授は、「メタンを基盤とする生態系が海洋最深部にも存在する可能性を示す重要な発見だ」と評価しています。
この発見はBBCなど複数の海外メディアで報じられ、CNNの番組ではキャスターが「宇宙が“最後のフロンティア”だと言われますが、深海もまた人類にとって未踏のフロンティアだと感じます」と述べ、深海探査の意義を強調しました。




