「咲かないのに実を結ぶ?」 奇妙なランの“静かな戦略”

画像はイメージ(Flicker/ julieanh

つぼみのまま開花せず、自家受粉によってのみ繁殖するラン科の植物の遺伝的な特徴が明らかになりました。

【画像】神戸大学の研究チームが解明した「咲かない花」の謎

この成果は、国際学術誌『Proceedings of the Royal Society B』に掲載されています。

研究チームは300個体以上を研究

研究を行ったのは、神戸大学大学院理学研究科の末次健司教授(神戸大学高等学術研究院 卓越教授)らのグループです。

対象となったのは、花を全く咲かせず、つぼみの状態のまま受粉・繁殖を行う「ヤツシロラン」の一部の種。

研究チームは、300個体以上を採取し、詳細な遺伝解析を行いました。

その結果、タケシマヤツシロランとクロシマヤツシロランでは、調べた全ての遺伝子の位置で親から同じ情報を受け継いでいることが分かり、外部との交配を行わない完全な自家受粉のみで繁殖していることが確認されました。

さらに、花を咲かせる近縁種のフユザキヤツシロランやトカラヤツシロランも、遺伝的なばらつきが非常に少ないことから、自家受粉が中心である可能性が高いということです。

ヤツシロランの仲間は光合成を行わず、林床で菌類から栄養を得て生きるという特殊な生活様式をもっています。

ミツバチのような花粉を運ぶ昆虫がほとんど来ない暗い森の中では、行動範囲の狭い小さな虫が花粉を運ぶため、結果として自家受粉が優勢になると考えられています。

また、咲かない2種は祖先とされる種の分布域の北端近くに位置しており、もともとの個体数の少なさや遺伝的な偏りが、自家受粉の進化を後押ししたとみられます。

高い確率で果実を実らせることが確認されており、この繁殖法は少なくとも短期的には成功しているようです。

ただし、花を咲かせなくなってからの進化の歴史は非常に浅く、せいぜい2000年ほどしか経っていないことも判明しました。

遺伝子がほとんど同じであることや、ゲノム全体の解析結果からも、このような繁殖スタイルは比較的最近に確立された新しいものだと見なされています。

ヤツシロラン以外で「咲かない花」を持つ植物はほとんど知られておらず、自殖だけで生き残れるのかというダーウィンの疑念は、一理あったと言えそうです。

今後は、より古い起源をもつ完全自殖の植物の存在についても、調査が進められる見通しです。

この発見に対してSNS上では、「島と虫が導いた進化の果てが“咲かない花”とは」「実におもしろい」「こういう研究をする人になりたかった」など、驚きや関心を示す声が多く寄せられていました。

Text by 本間才子