トランプに迫る暗雲 エプスタイン文書と共和党内の「裏切り」、広がる経済不満

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 ドナルド・トランプ大統領の「政治的に無敵」という表面的な強さに、ひびが入り始めている。生活費の高さに対するアメリカ国民の不安にうまく対応できず、ジェフリー・エプスタイン事件の資料をさらに公開しようとする反乱的な共和党議員たちの動きを封じ込めることにも苦戦しているからだ。

 こうした二つの課題は、最近の選挙で民主党が勝利した直後、そして来年の連邦議会の主導権を左右する中間選挙のキャンペーンを控えた状況で浮上している。事態は、ワシントンで比類ない支配力を誇示してきた大統領にとって、現実を突きつけるものになっている。

 トランプはこれまで、力ずくで連邦政府を作り替え、全米各地の都市に軍を展開し、軍事行動の合法性に関する懸念を無視し、ホワイトハウスに隣接する金ぴかの舞踏室の増築といった改装プロジェクトまで打ち上げてきた。

 しかし、トランプの二期目におけるこうした攻撃的な手法でも、政治的現実を消し去ることはできない。たとえば、ジョー・バイデン大統領の任期中よりもインフレ率が低いにもかかわらず、経済への不満はくすぶり続けている。

 「我々は史上最高の、考えてみてほしい、わが国の歴史で最高のインフレを経験した」とトランプは17日、マクドナルド主催のサミットで語った。「今は正常なインフレだ。正直に言えば、もう少し下げるつもりだが、正常な、正常化された状態にある。低い水準まで押し下げたが、さらにもう少し下げたい。われわれは完璧を求めている」

 さらに避けがたい事実として、大統領は三選が憲法で禁じられた「レームダック(任期切れ目前の大統領)」であり、本人は続投を望んでいるにもかかわらず、再び立候補することはできない。

 ケンタッキー選出の共和党下院議員トーマス・マッシーは、これまでたびたびトランプを怒らせてきた人物だが、エプスタイン関連文書の公開を司法省に義務づける法案への支持を呼びかける中で、この点を党に思い起こさせた。

 「どう投票するか考えている共和党の同僚たちに思い出してもらいたい。ドナルド・トランプは、今はあなたに支持表明を与えることで、保守地盤の選挙区であなたを守ることができる」とマッシーはABCニュースで語った。「だが2030年には、彼は大統領ではなくなっている。そのとき、もしあなたがこれらの資料の公開に反対票を投じていれば、小児性愛者を守るために投票したことになるし、そのとき大統領はあなたを守ってはくれない」

◆「火種」となるエプスタイン文書
 数年前に自殺したエプスタインは有罪判決を受けた性犯罪者であり、裕福で権力を持つ人々との人脈で悪名高かった。そのため、アメリカのエリート層による不正行為をめぐる怒りと陰謀論の的になってきた。

 トランプは当初、下院で審議されていたエプスタイン法案に反対し、それを長年自分を悩ませてきた捜査の延長だと形容していた。しかし16日になって突然態度を変え、採決を支持すると表明し、「この問題から先に進む時だ」と述べた。

 それは、共和党が多数を握る連邦議会で、トランプが珍しく敗北したことを示すものだった。議会内の共和党議員は、彼の権限を制限することに長らく消極的だったからだ。

 トランプは、週末に決裂したジョージア州選出のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員のような共和党議員に対しても、なお自らの意向を押しつけようと躍起になっている。同時に、来年の中間選挙での敗北を回避しようともしている。もし民主党が議会の多数派を握れば、トランプの政策課題を阻止し、政権の調査に踏み切る権限を手にすることになる。

 トランプは、共和党に有利になるよう選挙区の区割りを引き直すよう、各州の指導者に圧力をかけてきた。17日には、インディアナ州の共和党が自分の意向に従っていないと不満を漏らし、区割り変更を支持しない議員には予備選で対立候補の支援をすると宣言した。

 「どんな犠牲を払っても多数派を維持しなければならない」とトランプはソーシャルメディアに書き込んだ。「共和党は反撃しなければならない」

◆生活費への有権者の不安が重くのしかかる
 多数派を守るには、おそらくアメリカ国民の経済的不安への対応が不可欠だ。しかしその問題は、しばしば、トランプが重視する外交政策での「レガシー(功績)」づくりや移民取り締まり強化の陰に追いやられてきた。

 トランプは16日の夜、一部の消費者物価について「少し高くなっている」と認めた。生活費への対応は、経済政策の中核だった関税路線の一部見直しにもつながっている。政権はコーヒーや牛肉、熱帯フルーツなどの輸入品にかかる関税を引き下げた。関税が、トランプ自身の約束とは裏腹に、物価を押し上げてきたことを事実上認めた形だ。

 大統領はまた、富裕層を除くすべてのアメリカ人に対し、関税収入を原資とした2000ドルの配当を支給する構想も打ち出している。しかし、連邦政府が財政赤字に苦しみ続ける中で議会がこの案に同意する保証はない。人々に現金を配れば、トランプが「解消する」と誓ってきたインフレをかえって悪化させる可能性もある。

 それでもトランプは、マクドナルドのイベントではアメリカ経済について比較的楽観的なメッセージを発した。

 「われわれの国は本当にうまくいっている」と彼は語った。

 今月行われたニュージャージー州やバージニア州などでの選挙では民主党が圧勝した。これは、トランプの経済運営への不満を示す兆候だ。

 長年共和党陣営で世論調査を手がけてきたニール・ニューハウスは、民主党の勝利は驚くべきものではなかったが「われわれの注意を引いたのは、その勝利の深さと広がりだった」と語る。

 ニューハウスは、インフレが高止まりする中で有権者に「すぐ収まる」と説き続けた民主党のバイデンと同じ過ちを、自分たちの党も犯しかねないと警告した。

 「物価は下がっていると、こちらがどれだけ必死に説明しても意味がない」とニューハウスは言う。「有権者がスーパーの売り場でそれを実感できないかぎり、そんな説明には何の価値もない」

By CHRIS MEGERIAN

Text by AP