トランプ政権、「男性」「女性」の定義発表 「科学無視」と批判の声も
ロバート・ケネディ・ジュニア保健福祉省長官|Alex Brandon / AP Photo
バイデン前政権でLGBTQ+(性的少数者)の権利保護や多様性を促す政策が次々と打ち出されてきたアメリカ。その現状に危機感を抱いたトランプ大統領は就任早々、性別は男女の2つしかないと公言。バイデン前政権の性的多様性政策を撤廃した。そして、新たに公表した生物学的な性別の定義とは……。
◆男性・女性の定義採用
バイデン前政権は、トランスジェンダーを保護することを連邦政策の根幹に据えていたが、トランプ大統領は就任早々、学校、病院、刑務所、軍隊、住宅などにおけるトランスジェンダーの権利を剥奪することを目的とした大統領令に次々と署名し、前政権の政策を覆している。
それらのうち一つの「ジェンダー・イデオロギーの過激主義から女性を守り、連邦政府に生物学的な真実を取り戻す」と題された大統領令は、30日以内に「同大統領令で定められた性差に基づく定義を拡大する明確なガイダンス」を提供するよう指示していた。
これを受け、ロバート・ケネディ・ジュニア保健福祉省(HHS)長官は2月19日、トランプ政権の「男性」、「女性」を含むジェンダーを表現する公式な定義を採用したと発表した。
このガイダンスによると、男性は「精子を産出する生物学的機能を持つ生殖器官を特徴とする性別の人」、女性は「卵子を産む生物学的機能を持つ生殖器官を特徴とする性別の人」と定義されている。また、父親は「男性の親」、母親は「女性の親」とする定義も加えられた。
ニューヨーク・タイムズ紙は、ガイダンスの狙いを「トランスジェンダーの女性や少女を女子スポーツから締め出すこと、若者へのジェンダー肯定医療を抑制すること、連邦政府は2つの性別(男性と女性)のみ認めるというトランプ大統領の公約の実現すること」などだとする。
ケネディ長官は今回の発表のプレスリリースで「公共生活のあらゆる側面にジェンダー・イデオロギーを植え付けようとする前政権の政策は終わった」と述べた。
ケネディ長官はかねてよりトランプ氏に追随することを明言し、未成年者に対する思春期抑制剤やホルモン療法を含むジェンダー肯定医療の禁止に賛成すると述べている。
◆「科学無視」専門家ら批判
アメリカ小児科学会をはじめとする多くの医学専門家は、すべての人が男性と女性というカテゴリーに当てはまるわけではないという認識を示す。インターセックスと呼ばれる、典型的な男性・女性の定義に当てはまらない性器や染色体を持つ人もいる。(ニューヨークタイムズ)
CNNによると、アメリカ人の2%が生まれつきのインターセックスと推定されている。
また、 カリフォルニア大学ロサンゼルス校法学部のウィリアムズ研究所の推計によると、アメリカにはトランスジェンダーであると自認する若者と成人がおよそ160万人いるという(ニューヨークタイムズ)。
ジョージタウン大学の保健法教授で、オニール国民・世界保健法研究所の共同ディレクターであるミシェル・ブラッチャー・グッドウィン氏は、今回の定義は科学を無視したものであり、それを要求した大統領令には深い問題があると述べた(CNN)。
◆Z世代5人に1人がLGBTQ+
アメリカ・ギャロップ社は2月20日、24年のLGBTQ+自認率の調査結果を公表した。それによると、全成人の9.3%がレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、または異性愛者以外であると認識しており、23年時点の推定から1ポイント以上増加した。数値は2020年からほぼ倍増しており、ギャラップ社が調査を開始した2012年の3.5%から上昇している。
1997年から2006年の間に生まれ、24年に18歳から27歳だったZ世代の成人の5人に1人以上が、LGBTQ+であると自認している。過去2年間の平均は22.7%になっている。
この調査は、1万4000人以上の成人をランダムに選出し、ストレートまたはヘテロセクシュアル、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、またはそれ以外であるかを電話で質問した。その結果、全体では、85.7%がストレート、5.2%がバイセクシュアル、2.0%がゲイ、1.4%がレズビアン、1.3%がトランスジェンダーと回答した。1%弱が、パンセクシュアル、アセクシュアル(どの性にも恋愛感情を抱かない)、クィア(性的指向・性自認が普通とは異なり、あらゆるカテゴリーを包摂)など、その他のLGBTQ+アイデンティティを挙げた。
また、約900人のLGBTQ+のうち、半数以上の56%がバイセクシュアルであると答えた。ゲイと答えたのは21%、レズビアンが15%、トランスジェンダーが14%、その他が6%だった。Z世代とミレニアル世代のLGBTQ+の半数以上(それぞれ59%、52%)がバイセクシュアルと回答した。
この数字は世界的にも一致している。世界大手マーケティング調査会社イプソスが26ヶ国で実施した2024年の意識調査では、Z世代の17%が何らかの非異性愛者であることがわかった。そのほか、ミレニアル世代が11%、X世代は6%、ベビーブーマー世代は5%だった。