バンスを副大統領候補に押し上げたシリコンバレーとの関係

J. Scott Applewhite / AP Photo

 アメリカのトランプ前大統領の大統領選における副大統領候補として指名されたJ・D・バンス上院議員。その背後にあるとされる、シリコンバレーの保守派の影響力とは。

◆バンス上院議員の経歴
 バンスは、高校卒業後は海兵隊に入隊し、イラクに派遣された。その後、オハイオ州立大学を経て、イエール大学の法科大学院に進学。弁護士とベンチャー・キャピタリストとしてのキャリアを経て、2022年、オハイオ州選出上院議員として初当選を果たし、翌年1月から現職についた。現在39歳で、政治家としてのキャリアも短いが、副大統領候補に指名され、にわかに注目が集まっている。過去にトランプを強く批判し、絶対トランプ派にはならないと公言していた人物だが、トランプにとっての最も重要なアセットの地位につくという結果になった。

 バンスは、「ラストベルト」と呼ばれる衰退した工業地帯に含まれるオハイオ州ミドルタウンと、独自の文化が根付くアパラチア地方のケンタッキー州ジャクソンで育っている。両親は離婚し、母親の新しい夫の養子となったが、母親は薬物中毒に苦しみ、2回目の結婚も離婚に終わり、その後、祖父母に育てられた。2016年、バンスは自身の家族の危機を綴った回顧録『ヒルビリー・エレジー:アメリカの繁栄から取り残された白人たち(Hillbilly Elegy: A Memoir of a Family and Culture in Crisis)』を出版。同著はニューヨーク・タイムズ・ベストセラーになり、その後、ロン・ハワード監督によって映画化され、ネットフリックでも配信されるなど、バンスの回顧録をもとにした物語が広く流通している。

◆シリコンバレーの有力者とのつながり
 バンスは、ペイパルやオープンAIの共同創業者、また複数のベンチャー・キャピタルの設立者・経営者として、アメリカで最も影響力のある起業家、投資家の1人であるピーター・ティールに大きな影響を受けている。バンスは、テクノロジーの停滞とアメリカのエリートの減少に関するティールの講義を受けたことが、イエール大学在学中の最も重要な出来事であったと述べている。卒業後、ティールが設立したベンチャー・キャピタルの一つであるミスリル・キャピタルに勤務。上院議員選に出馬した際、ティールは1000万ドルの政治献金を行い、最大の献金者となった。(ポリティコ
 
 ニューヨーク・タイムズは、バンスのシリコンバレーのキャリアは5年足らずだったにもかかわらず、その時に形成されたティールらのシリコンバレー有力者とのつながりが、今回の副大統領候補の指名に影響を与えていると報じる。先月、サンフランシスコにあるテック起業家デービッド・サックスの屋敷でトランプの選挙資金集めのための夕食会が開かれ、バンスも参加した。その際、「副大統領候補を誰にすべきか」というトランプの問いかけに対し、サックスを含め、その場に参加していた有力者は全員、バンスを推したという。

 米公共ラジオ(NPR)は、バンスが副大統領候補になったことで、シリコンバレー界隈の保守派の有力者は、今後さらにトランプ・バンスの選挙戦に対して献金を行うことが予測されると報じる。トランプの暗殺未遂事件の直後、イーロン・マスクがトランプ支持を表明した。バンスが副大統領として政権に参画すれば、税制や人工知能(AI)、仮想通貨などに関して、自分たちに有利になると見ていると同記事は伝える。

 バンスがトランプ陣営と支持率にどのような影響を与えるのか。11月の選挙を前に、アメリカメディアの報道から目が離せない状況が続く。

Text by MAKI NAKATA