タリバン政権を待ち受ける厳しい経済・安全保障問題
アフガニスタンのタリバンは、20年前に権力の座を離れ、当時とは大きな変化を遂げた国で復権を遂げた。しかし、新政権を待ち受けるのは厳しい経済・安全保障問題である。
タリバン政権支配の晩年にあたる1990年代末、アフガニスタンは貧しい農業国だった。国民は伝統を重視し、おおむね従順であったが、タリバンは徹底して厳格なイスラム主義を強いた。
タリバンは今回、数は少ないものの教育を受けた中流階級が存在する社会を受け継いだ。しかし、戦争と汚職で荒廃した経済も負わなければならない。アメリカが20年にわたり介入し数十億ドルにおよぶ援助をしていたにもかかわらず、8月15日のカブール制圧以前から失業率は30%を超えており、アフガニスタン人の半分超が貧困に苦しんでいる。
タリバンは国民を安心させようと、弾圧的な支配を行っていた1996年の政権とは違うことをアピールしている。当時、男性はあご髭を生やすこと、女性は全身を包むブルカを着用することを義務付けられていた。少女は教育を受ける機会を奪われ、音楽やテレビといったエンタメは忌避された。
多くのアフガニスタン人がそのような過去の記憶を払拭できず、新政権の水面下にはかつてのタリバンが潜んでいるのではという潜在的な恐怖心を抱いている。そのため、新政権が何を約束しようと復権を望まない人が多く、数千人が今後の生活を国外に求めている。
タリバン政権のうち現在カブールで任務に就いている数人は、1990年代に厳しい統治を行っていた政権の一員であったが、亡命期間中に姿勢を変えたようだ。
ムラー・アブドゥル・ガニ・バラダル氏は、1996年にはほとんどカブールを訪れることなく、南部の地方都市カンダハールに滞在していた。しかし近年は、湾岸アラブの一国でタリバンが政治拠点を置くカタールに在住し、政界一のネゴシエーターとして活躍している。バラダル氏はいまや、ロシアや中国のみならず、アメリカなど上位の政治的指導者と肩を並べる存在だ。
現在のタリバンは、かつての敵対勢力に帰国を命じ、報復しないことを約束するなど融和的な姿勢をとっている。
タリバン首脳陣の間では、どのような統治を行うかについて意見が割れている。さらにアフガニスタンの部族の長老らも、無視できない影響力を持っている。また、成長期を戦場で過ごし、巨大な力に勝利した手応えを感じている数千人の戦士もいる。このような若い戦士の多くが今回の勝利に歓喜しているため、歩み寄ることが公益のためだと説得するのは、不可能ではないとしても難しいだろう。
過去には、タリバンの戦士団がこのような動きは本来の厳格な信仰に背くとし、イスラム国に鞍替えした。イスラム国は国の安全保障にとって大きな脅威となっている。8月26日に起きたイスラム国による爆弾テロでは、169人のアフガニスタン人と13人の米軍が犠牲となり、米軍の大規模退避を急ぐタリバンの試みを邪魔する形となった。
タリバンにとっては、タイミングも不利に働いている。
経済は、もう何年も低迷を続けている。アフガニスタンに平和が訪れたら、国民からは経済対策を求める声が多くあがるだろう。しかし、アシュラフ・ガニ元大統領が率いていた政府の資金のうち80%を出資していた国際社会が支援を打ち切るとなれば、経済対策などほぼ不可能である。
アメリカに拠点を置くシンクタンク「ウィルソン・センター」のアナリスト、マイケル・クーゲルマン氏は、「新政府は早急に成果をあげ、経済危機を緩和しなければならない。失敗に終わった場合、まずはタリバンへの大きな反発が起こる可能性を考えなければならず、タリバンが権力を固める上で大きな課題となることは確実だ」と話す。
しかし、タリバンが独自の信仰を固く守りながらもどの程度方針を変え、国際社会の懸念を減らそうとするかによっては、とくに厳格なイデオロギーを掲げる首脳陣の間で亀裂が広がる可能性もある。
ファルハディ氏によると、国外に居住するアフガニスタン人はタリバンが必要とする多くの専門知識を蓄積しており、タリバンはそれを利用しようとしている。
同氏は、「国際社会がタリバン政府の資金調達を阻止しようとするなか、ただでさえ大きな政策危機が深刻さを増しているときであるのに、政権には政策に関する経験が何もない。そしていつものごとく、もっとも苦しい目にあうのは国民、つまりアフガニスタンの人々だ」と話す。
By KATHY GANNON Associated Press
Translated by t.sato via Conyac