ウガンダ大統領選、35年の「独裁」に挑んだ元歌手の軌跡

Jerome Delay / AP Photo

◆暴力に屈しないボビ・ワイン
 昨年4月に米ローリング・ストーン誌が、ボビ・ワインの長文プロファイル記事を公開している。音楽で成功し、クラブに高級車で乗りつけていたワインだが、軍トップなどとの仕事を通じて社会に不満を感じていた兵士の客に絡まれ、殴られるという殴打事件をきっかけに、ウガンダの社会課題に対して行動を起こそうと決意したという。一方、そのルーツは政治家と無関係なものではなかった。ワインは、ウガンダ内戦中の1982年生まれだが、内戦前、ワインの家族は政治活動に積極的に参加し、比較的裕福に暮らしていたそうだ。家族はムセベニを支持しており、彼の祖父はムセベニの抵抗運動に参加して死亡、父親はオボテ政権に捕らえられて死刑判決を受けた。お金と引き換えに母が父を保釈したが、父親はタンザニアに亡命した。ワインの兄弟も、政治活動に関わっており、政治は「ファミリービジネス」だったという(同誌)。

 2016年にムセベニが人気アーティストに大金を払って自分の選挙活動に参加させたことが、彼を奮起させた。ワインのところにも1500万円近い金額のオファーが来たが、彼はそれを断った。その後、2017年選挙に出馬し、国会議員に選ばれた。ワインは、国会議員に立候補してから20回以上逮捕されている。2018年にはほかの議員の補欠選挙の応援に出かけたところ、軍に拘束され、暴力を受け、その後約2週間留置された。今回の大統領選挙戦でも、ワインは逮捕され、それに抗議する人たちのデモが暴力で封じ込められた。この11月の事件では、少なくとも54名が死亡したとされている。その後もワインは車を銃撃されるなどし、防弾チョッキを着用して選挙活動を続けていた。彼だけでなく、ワインの政治活動「ピープル・パワー運動」の支持者も、死亡したり、行方不明になったり、暴力を受けたり、留置されたりしている。

 彼は、ムセベニの政権を終わらせ、法治国家体制を取り戻し、三権分立を機能させたいと考えている。ムセベニは、対テロ活動への軍事協力やアフリカ難民の受け入れなど、欧米に対して「協力的」外交姿勢を示すことで、国内の「独裁体制」に対する批判をかわしてきた。この状況に対して、ワインはアラブ諸国で起こった「アラブの春」のように、革命を起こしたいと考えている。一方で、人々は動乱ではなく、平和と治安の安定を求めている。現状維持で、ムセベニを支持する考えも少なくない。

 AP通信によると、ムセベニが初めて選挙を実施して、75%の得票率を獲得した1996年からの記録において、今回の彼の得票率はもっとも低いものとなった。ワインは35%の得票にとどまったものの、ほかの候補者に比べれば圧倒的な得票率である。ワインは、不正がなければ勝利したと語っている。今回の選挙で、ウガンダ内外から注目を集めたワイン。彼の今後のムセベニへの挑戦については、国内の若者の支持だけでなく、ムセベニに対する外からの圧力も重要な要素となりそうだ。

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Text by MAKI NAKATA