フランス:良い市長が良い首相となる例が続くか?

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◆唯一好感度の高い政治家:市町村長
 このようにフランスでは大臣職と市長職の行き来は珍しくないし、市長として評価の高い人物の閣僚入りは、おおむね肯定的に報道される傾向がある。これはおそらく市長という役職に対する信頼の高さと無関係ではないであろう。2月に発表されたオピニオン・ウェイ=スクエア・マネージメントによる統計によれば、(フランスでは)66%の国民が市町村長の行動に満足し、居住地域の未来を楽観視している。また、68%は市町村長選挙に関心があり、身近に感じている(20 minutes、2/18)。この傾向は注目に値するものだ。というのも、フランス人は基本的には、政治家に大きな不信感を持っているからだ。実際、昨年6月にBVA-ラ・トリビュヌが発表した調査によれば、88%のフランス人は政党を信用していないと回答し、76%は下院議員・上院議員に不信感を持っていると表明している(同上)。

 ではなぜ市町村長だけは、高い評価を得ているのか? 20 minutes紙はその理由を「(典型的な)政治家としては見られていないから」だと考える。そもそもフランスの政治家に対する批判は、「大衆から遠い場所にいて、欲が深く、現実に寄り添っていない」という3点に集約されるが、市町村長のイメージはときとして「まったく逆」だと、政治学専門家のダニエル・ボワは指摘する。つまり、「有権者たちに身近であり、有形で具体的な行動を起こし、しかし人材や財源不足である」存在で、そのため国民の親近感を得やすいのである。

◆身近な存在の強み
 また実際物理的にも、市町村長は住民にとって「身近」なのだ。人口1億2500万人以上の日本の市町村数は1724しかないのに対し、人口約6700万のフランスには3万4967もの市町村がある(フランス・キュルチュール)。そのため「フランスの自治体の90%は人口3500人未満」で、「大抵の自治体では、自宅から役場まで最長徒歩20~30分」という近しさを保つ(20 minutes、2/18)。

 この距離間は、市長選挙投票率の高さにも表れている。今年は新型コロナウイルスの影響で、棄権率が例外的に高かったが、前回の2014年の市議会選挙の投票率は62%で、大統領選を除くほかのどの選挙よりも10ポイント投票率が高かった(20 minutes、2/18)。

 苦労も少なくないが、施策の手ごたえを日々感じられる市長職に愛着を抱く政治家も少なくないようだ。上述のジェラール・コロン元内相もバイル司法相も、大臣の職を辞したのちは元の市長に収まっている。過去最高の支持率にもかかわらず辞職し、念願のル・アーヴル市長に再就任したフィリップ元首相は、「市長であるということは、フランス共和国が提供しうる最も素晴らしい権限を行使する機会を持つということだ」(リュニオン紙、7/5)と、その喜びと意気込みを語っている。カステックス新首相が市長を務めていたプラド市民もインタビューを受けたものは皆、「(マクロン大統領の任期が明ける)2年後には(市長に)戻ってきてほしい」と語っている(ユーロップ1)。この春再選されたときの得票率は76%だったのだから頷ける話だ。

 良い市長が良い首相となる例が続くことを期待したい。

Text by 冠ゆき