犠牲やむなし、イギリス独自のコロナ対策 「集団免疫」で収束狙う

Richard Pohle / Pool via AP

◆もはやギャンブル? 専門家から批判
 政府の主席科学顧問、パトリック・ヴァランス氏によれば、「集団免疫」ができるには人口の60%の感染が必要になる。イギリスの人口は6600万人なので、4000万人の感染が必要だ。この場合、死者は30~100万人以上になると推定される(ウェブ誌『Vox』)。これを踏まえ、200人以上の科学者と医学専門家が「集団免疫」戦略に反対する公開書簡を出した。政府の方針は国の医療制度を圧迫するものだとし、厳格な社会隔離など、現在政府が推奨しているものより真剣な対策を求むとしている。

 エジンバラ大学医学部のデビ・シュリダール准教授はガーディアン紙に投稿し、中国、韓国、台湾、シンガポールなどが世界保健機構(WHO)の推奨する検査、接触者追跡、社会隔離を通し、封じ込めに成功していると指摘。それにもかかわらずイギリスは独自の道を行き、国民の健康を賭けに使おうとしていると批判する。「集団免疫」で感染を防止し弱者を守るのは「理想的」に聞こえるが、あくまでも計画はコンピューター・シミュレーションに基づくもので、計算通りに行かない場合は甚大な被害が出ると主張している。

◆そもそも免疫はつくのか? 政府のかじ取りにも不安
 一方、政府の科学アドバイザーは、いまウイルスの拡散を止めれば、将来の感染の再発に対して脆弱になる危険性があるとし、「集団免疫」が有効だとする。専門家のなかには、封じ込めに成功している国でも、ウイルスがまた大規模な感染を起こすことはあり得るという見方もある。ハーバード大学の疫学者、マーク・リプシッチ氏は、武漢でさえ感染者は20%に達しておらず、「集団免疫」はできていないと述べる。中国は封じ込めに成功して現在国外からの渡航規制をしているが、人間の活動がもとに戻ればまた感染は広がると見ている。

「集団免疫」の威力はその長さによるが、新型コロナウイルスに感染してもどのぐらいの期間免疫がつくのかは、現在わかっていないことが主要な問題だとフィナンシャル・タイムズ紙(FT)は指摘している。元WHOのアンソニー・コステロ氏は、そもそも免疫がつくかどうかも研究者にはわかっていないと述べ、不確実な未来の利益のために、いますぐ犠牲者を作り出すような政策を取ることは倫理的にどうなのかと述べている(Vox)。

 批判を受けて、政府は「集団免疫」は科学的な概念であり、政府の目標や方針ではないと釈明。今後は70歳以上の人に自主隔離を勧めることや、大規模イベントの禁止などの対策を取ると表明している。

 FTは、戦略的にはウイルスを広げつつその速度をコントロールし、感染のピークを低く抑えて、医療崩壊を防ぐというデリケートなバランスが要求されると指摘する。大規模集会の禁止などの策を取っても、感染のペースを遅らせることができるかは定かではないと述べ、政府の手腕に不安を感じているようだ。

Text by 山川 真智子