「中国のせいではない」「英雄・習主席」イメージ修正に力を入れる中国 新型肺炎

Xie Huanchi / Xinhua via AP

◆責任回避か? 変わる政府のナラティブ
 豪ファイナンシャル・レビュー誌の中国特派員、マイケル・スミス氏は、中国のコロナウイルスにまつわるナラティブ(語り手が伝える物語)が、ここ2週間ほどの間に変化を見せていると指摘する。最初はウイルスの発生源は武漢の市場だとし、1月20日の会見では、市場の野生動物を通じ人に感染した可能性が高いと説明していた。ところが、著名な科学者で感染封じ込めを担当する政府の有識者委員会のトップ、鍾南山氏が2月27日、「コロナウイルスの感染が始まったのは中国だが、発生源は必ずしも中国とは限らない」と発言。これをきっかけにウイルスはアメリカ発などの陰謀論などがネット上に飛び交うようになった。

 中国政府はこういった噂を認めることも止めることもしていない。一方、中国の強力なプロパガンダ機構は、コロナウイルスに関する責任は中国にあるのではなく、政府は封じ込めをうまくやっており、むしろ世界は中国の犠牲から恩恵を受けられることに感謝すべき、というメッセージを繰り返し送っているという。

 スミス氏は、問題はウイルスの発生源ではなく、武漢の地方政府が感染を隠蔽した事実の責任は中央にあるという批判を、中国政府がかわそうとしていることだと述べる。また、中国国内で感染が終息しつつあるとき、海外でウイルスが猛威を振るっていることも中国のナラティブには好都合だと指摘し、アメリカや韓国の困る姿に自己満足するかのような論評があるのも問題だとしている。

 中国国営新華社は、中国の王毅外相が感染拡大で苦しむイタリアのディマイオ外相と電話で会談し、両国が手に手を取ってウイルスに打ち勝とうと述べたと英語版で報じている。中国自体も大量の医療用品が現在でも必要だが、イタリアが困難に立ち向かうため、マスクなどの物資や装備を供給すると王毅氏は約束。対新型ウイルスでの共闘によって二国間の関係が深まり友情が強化されると王氏が述べたことを同社は伝え、自国の国際貢献を強調している。

◆まるで天安門 事実は書き換え可能
 スミス氏は、世界が中国の勝利というストーリーを信じるかどうかよりも、中国人民が何を信じるかのほうがより大きな問題だとする。先日武漢の共産党トップが、「習主席に感謝する、感謝教育を行う」と述べ、ソーシャルメディア上で大きな批判を浴びた。また、武漢訪問の際に習主席が患者や医療従事者と直接ではなくビデオ電話で会話したことも、「ここまで来てビデオなのか」という辛口コメントもあった(NYT)。

 こういった反発にもかかわらず、新型コロナウイルス騒動で習主席がヒーローになったことを表す兆候が国内のほとんどの場所で見られるとスミス氏は指摘。中国の歴史書き換えの実績から考えると、真実がおそらく次世代の人々には知られなくなり、天安門事件の二の舞になる可能性もあるとしている。

Text by 山川 真智子