各地で抗議、インドの市民権問題とは? 70年前の印パ分離から振り返る

AP Photo / Altaf Qadri

 インドでは昨年12月、市民権法改正案が議会を通過したことをきっかけに、各地で抗議運動が続いている。新たな市民権法により、宗教的な迫害を逃れてインドに不法入国した一部の移民が、市民権を取得する手続きが簡略化される。しかしイスラム教徒は対象外とされているため、これが差別にあたり、インド憲法に違反すると批判の声があがっている。そこで今回は、インド市民権の扱いがどのように変化してきたのか簡単に振り返ってみよう。

◆きっかけはインド亜大陸の分断
 イギリスからの入植者が1947年、インド亜大陸をヒンズー教徒が多数派を占めるインドと、イスラム教徒多数派のパキスタンに分断したことをきっかけに、世界で最も大規模な人間の移動が発生した。数百万人のイスラム教徒がインドを離れ、新しく建国されたパキスタンの西部、東部を目指した一方、ヒンズー教徒やシーク教徒はインドへと向かった。この移動の間に発生した宗派間の暴力事件により、およそ100万人が命を落としている。そして70年超が過ぎてもなお、このような移民の子孫数十万人の身分が、曖昧な状態となっている。

◆インド市民の認定基準
 数千人は合法的に、または役人への賄賂を使って、食料配給カードや選挙登録カードといったインド市民としての身分証明書を獲得した。1951年にはインド初の国勢調査が実施され、1955年には市民権法の施行により、インド市民権について出生、血統、届出内容に基づいたルールが定められた。

◆さらなるガイダンスの発行
 2003年市民権改正法では、1950年~1987年の期間にインドで生まれた人に加え、1987年~2003年にインドで生まれ、両親のいずれかがインド市民である人たちをインド市民と定めた。また、外国籍の人々が市民権を要請するには、インドにおける11年以上の居住歴が必要となる。

◆新市民権法の変更点
 ナレンドラ・モディ首相のヒンズー至上主義政党率いるインド政府は、イスラム教徒が多数派を占めるパキスタン、バングラデシュ、アフガニスタンから宗教的迫害を逃れ、2014年12月31日以前にインドに不法入国した移民の一部に市民権を与える法案を強行採決した。同法律はヒンズー教徒、キリスト教徒、ジャイナ教徒、パルシー教徒、仏教徒に適用される。その他の宗教を信仰する外国籍の人々は、今後も11年の居住歴が必要となる。

 多種多様な宗教の信仰を認める世俗国家であるインドで、市民権に宗教的な基準が設けられたのはこれが初めてだ。

◆2度目の大規模流入
 1964年、当時の東パキスタンで発生したヒンズー教徒とイスラム教徒間の暴動により、大量のベンガル人ヒンズー教徒が国境を越え、インドに流入した。1965年にはインド・パキスタン戦争が発生し、1971年にはパキスタンが分裂。パキスタン東部がインド軍の協力を得て独立し、バングラデシュを建国した。これらの出来事により、新たに大量の難民がインドに渡った。

◆地元住民の不満
 インドのアッサム州では、バングラデシュからの大規模な移民流入を受け、アッサム州の学生が先導し、同州へ不法に流入した移民らの拘留、権利剥奪、国外退去を求める抗議運動を開始した。

 最高裁判所は申し立てを受け、アッサム州当局に市民とみなされる住民の数を確認するよう命じた。

 確認作業は2015年に始まり、昨年夏に完了。その結果、アッサム州では200万人近くの住民が市民とは認められなかった。その約半数がヒンズー教徒、残りの半数がイスラム教徒であった。

 市民と認められなかった住民は現在、裁判所に相当する機関で市民権を証明できなければ、外国人とみなされてしまう。新市民権法が採決されたのは、市民権を得られていないヒンズー教徒への救済策と思われる。

◆重要な点が不明なまま
 モディ首相率いるインド政府は、市民権の確認作業を国内各地でも行うことを提案した。しかし政府は、インドに不法滞在している移民の推定人数も発表していなければ、外国人と判定された人々についても拘留か国外退去とするのか、市民権とそれに伴う特権を認めないまま滞在を許可するのかどうかも明言していない。過去に市民権が認められなかった住民は、拘留センターに移送され、法的に曖昧なまま何年も苦痛を強いられた。

◆抗議運動の勃発
 最高裁判所には新市民権法に異議を申し立てる請願書が寄せられ、60件近くが係争中だ。インド各地では、抗議運動が勃発した。このように信仰も出自も異なる何万人もの住民が団結しているのは、多元的なインド社会において、新市民権法が大きな脅威として捉えられている証拠でもある。インドの28州のうち西ベンガル州、パンジャーブ州、ケーララ州、マディヤ・プラデーシュ州、チャッティースガル州の5州は、新しい法律を執行しないと発表した。しかしモディ首相が党首を務める政党は、抗議運動を野党が画策したものだとし、問題視していない。

By ASHOK SHARMA Associated Press
Translated by Conyac

Text by AP