新型肺炎:自国民・世界の安全より国家のイメージ……被害を拡大させた中国の検閲
◆国家のメンツが大事 検閲が初動を遅らせた
ユー氏は、2003年のSARSの教訓から、中国政府はいつもより正直に対応していると見ており、病気の封じ込めが民主主義国より早くできることは一党独裁システムのプラス面だとする。しかし情報の共有という点では、市民のだれもが限界があることを知っているとし、政府に都合の悪い情報を削除するなどの検閲を問題視している。
プロジェクト・シンジケート誌も、SARSのときより病気を観察する技術的能力は格段に上がっているのに、いまだに情報隠蔽の習慣はなくならないとする。感染を確認した初期の大切な時期に、政府は市民からの新型肺炎発生に関する情報をせっせと削除しており、病気の「噂を流す」者は警察の嫌がらせを受けたと述べている。
同誌が紹介する中国で行われた研究によれば、感染発生についてのWeChat上でのコメントは、武漢の保健当局が初めて感染を認めた時期の12月30日から1月4日に急増したが、すぐ減少したという。その後、最初の死者が報告された1月11日には関連コメントがわずかに増加するも、すぐに消えてしまった。武漢での136件の新たな感染が報じられ、北京、広東省でも感染者が見つかったと発表された1月20日の後、ようやく政府が検閲を弱め、新型ウィルスに関する言及が爆発的に増えたということだ。
同誌は、政府のイメージを守ろうという試みが、初期のウィルス封じ込めの失敗につながったとする。一党独裁国家の存続は、秘密とメディアの抑圧と市民の自由の束縛にかかっており、共産党の権威を高めるため、今後も自国とそして世界の安全を軽視するのだろうと述べている。
◆国民にたまる不満 ネットでガス抜き進行か?
香港のサウスチャイナ・モーニング・ポスト紙(SCMP)は、中国人民は政府の厳しい検閲により、地方政府への怒りをぶちまける機会はほとんどないが、今回は少なくとも一時的にでも変化が見られると述べる。
同紙によれば、現在WeiboやWeChatは湖北省政府への直接批判の場となっており、市長のマスクのつけ方が不適切と言った、細かい不満まで写真つきで拡散されている。また「市長はもう下ろされたのか」「知事は下ろされたのか」といった批判的なコメントも削除されていないという。2003年のSARSのときにはいまのようなソーシャルメディアはなく、気持ちを表す場がなかったが、今回はメディアだけでなくネット民が政府の監督役になっている、とインターネット業界のコメンテーター、Dingding Zhang氏は解説している。
前出のユー氏は、検閲は大衆のパニックを防止するためのものだが、必要なマスクも手に入れることができない状況で検閲をしても、集団ヒステリーを防止することはできないと述べている。人民の不満も考慮し、政府はガス抜きを図っているのかもしれない。SCMPは、ジャーナリストによる批判のコメントは削除させられたり、新聞社が謝罪に追い込まれたりしており、政府が検閲ルールを緩めたというわけでは決してないと述べている。
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