移民親子の引き離し、「日系人の収容所を想起」と批判 元大統領夫人ら
米国のトランプ政権が行う不法移民への「ゼロ寛容」政策の一環で、対メキシコ国境で拘束した不法移民の親と子供を分離する措置が取られていた。これに対し、非人道的だとして大きな批判が巻き起こり、トランプ大統領は6月20日にこの措置を取りやめた。こうした批判の中には、第二次世界大戦中に敵とみなされた日系米国人が入れられた収容所を想起させるとするものもあった。
◆なぜ親子を分離するのか? ゼロ寛容政策とは
親子を分離する措置が行われて以降、親から引き離されて泣いている子供の写真や音声が報道され、身内の共和党からも非難の声が上がっていた。国土安全保障省によれば、5月5日から6月9日にかけて、2300人以上の子供が親と引き離されたという(AP通信)。
トランプ大統領は批判を受け、20日に親子の分離をやめる大統領令に署名した。
非人道的で道徳に反するとの批判を受けた親子の分離をトランプ政権が行った理由は、国境で捕まった子供の身柄を拘束するのは最長20日と定めるルールがあるためだ。トランプ政権の「ゼロ寛容」政策では、不法入国した成人は全員刑事裁判にかけられることになる。そのため成人は勾留されることになるが、子供は上記のルールによって20日以上拘束することができないため、子供のみを保健福祉省が管轄する施設に収容する対応が行われていた。
◆「日系人収容所を想起」と批判の声
ジョージ・W・ブッシュ元大統領の妻ローラ・ブッシュ氏は、ゼロ寛容政策は残酷で道徳に反すると批判した上で、「米国史上最も恥ずべき出来事の1つと現在ではみなされている第二次世界大戦中の日系人収容所を想起させる」と指摘した(ワシントン・ポスト、6月17日)。
当時の日系人の多くは米国市民であり、不法移民とは事情が異なる。しかし、不法移民の子供を収容する施設が日系人収容所と同様に砂漠地帯など劣悪な環境に設置されていることや、特定のグループを排除していることなどから、日系人収容所になぞらえて批判する声が出ている。
『スタートレック』シリーズに出演したことで有名な日系人俳優のジョージ・タケイ氏は、「日系人収容所では少なくとも、私や他の子どもが親から引き離されるということはなかった」とし、親子の分離が行われている現状は日系人収容所よりもひどいと批判した(フォーリン・ポリシー、6月19日)。
◆今後の移民政策は? 親子分離取りやめ後も残る懸念
大統領令によって親子の分離は取りやめになったが、「ゼロ寛容」政策は続いている。子供の身柄拘束を20日までとするルールも変更されていないため、一時的に親子が一緒にいられるようになったとしても、20日後には再び分離される可能性もある。
トランプ政権側は、20日までというルールの速やかな変更を目指すとしており、大統領令は裁判所や議会がルールを変更するための時間を稼ぐ「一時しのぎ」の処置だとされている。大統領令で親子分離の問題が完全に解決したとは言えず、今後の動きに注目が集まっている。