アメリカの経済支援を脅威とみなす北朝鮮 金正恩の恐れるシナリオ
アメリカと北朝鮮の首脳会談は順調な軌道に乗っているように見えるが、北朝鮮の最高指導者、金正恩が本当に望んでいることは、核武装による国家の安全と体制保証などではなく、実は、アメリカ的な経済の繁栄である、としたアメリカ側のコメントに対し、北朝鮮は、高まるいら立ちを隠し切れない。
この件は、金正恩にとっては問題の核心を突くものであり、また、6月にシンガポールで米朝首脳会談を開催する予定でもあることから、アメリカのドナルド・トランプ大統領にとっても無視できない北朝鮮の本音でもある。
金正恩は首脳会談が一刻も早く実現するよう、トランプ大統領と同様の熱意を持っているが、ここ数カ月で北朝鮮が何の前触れもなく外交姿勢を二転三転させている背景には、金正恩がアメリカの経済支援の受け止め方に苦慮していること、そして、民間有識者が指摘する、北朝鮮の最高指導者としての立場上、絶対に卑屈な姿勢で首脳会談に臨むわけにはいかないと考えている金正恩の姿勢が見え隠れする。
しかし、その主張はまた、実に的外れなものでもある、と言えよう。
北朝鮮は、経済的な生命線である中国と、観光や大規模な共同プロジェクトを通じて将来的に多額の収益が見込まれる韓国との取引規模の拡大に対し、より強い興味を持っている、と考えて良い。北朝鮮の国家体制を合法的なものと認め、いかなる形であれアメリカから体制保証を約束させるとともに、金正恩がこれらのもくろみを達成できるようアメリカに経済制裁を解除してもらうことは、金正恩が念頭に置く最大の関心事であろう。
たとえそれが事実でも、アメリカからの経済支援を北朝鮮が渇望していることは誰もが認識している、ということは、トランプ大統領とその配下の高官が北朝鮮に送り続けている一貫したメッセージである。アメリカのトランプ政権は、金正恩がまず実施すべきことは北朝鮮の非核化であり、また、アメリカの起業家たちは貧しい北朝鮮の疲弊しきった経済を救済する奇跡を起こす準備が既に整っていることを同国に伝えている。
トランプ大統領は5月27日、「私は、北朝鮮はまばゆいほど輝く可能性を秘めており、いつの日か、豊かな財政を備えた経済大国になるだろうと強く信じている。そして、この点については金正恩も私に賛成している」とツイートした。
マイク・ポンペオ国務長官は、合衆国政府の方針をより詳細に示した。
ポンペオ国務長官は今月、テレビでのインタビューで、「我々は、北朝鮮において、韓国に比肩するほどの経済的な繁栄の基盤を築くことができる。しかし、それは、アメリカの納税者の血税で賄うものではない。北朝鮮の人民と一緒になって働くアメリカのノウハウ、知識、起業家、およびリスクを顧みない挑戦者が一丸となって同国の人々のために堅牢な経済を生み出すことになる」と語った。
また、ポンペオ国務長官は、アメリカが北朝鮮におけるエネルギー網の建設とインフラ整備、そして最新の農機具と栽培技術を支援する用意がある、と北朝鮮に提案し、「北朝鮮の人民は、肉を食べ、健康的な生活を送れるようになる」と語った。
しかし、金正恩はこれらの提案に、何一つ賛成の意を表していない。
トランプ大統領の「最大の圧力を掛ける」政策の下で、北朝鮮に対する国際的な制裁がこれまでになく強化されている。制裁措置の緩和によって、北朝鮮がアメリカよりも強い信頼を置くパートナー諸国である中国、韓国、そしてロシアとの貿易拡大の扉が開かれる、と見込まれる。そして、制裁緩和は、北朝鮮による世界的な金融機関との接触を潜在的に可能にする。
金正恩は、自国の核兵器を完全放棄すると、北朝鮮国内にアメリカのビジネスマンや起業家が押し寄せることになるのだけは絶対に避けたい、と考えている。
北朝鮮は、そのシナリオをアメリカからの温かい申し出ではなく、むしろ脅威である、ととらえる。
北朝鮮は、海外からの投資や支援を渇望しているにもかかわらず、一般的に金正恩政権が経済支援を警戒するのにはそれなりの理由がある。北朝鮮が態度を融和させて支援を受け入れることは、必然的に、現体制を破壊する可能性のある外部の者や体制の変革を叫ぶ者との接触の機会を増やし、さらに政権が敷く統制と規制の緩和を余儀なくされることにつながる。これらはすべて、ほぼ独裁体制を敷いている金正恩にとっては警戒すべき脅威となる。
この点についての北朝鮮側からのメッセージは明快だ。
ポンペオ国務長官が北朝鮮の経済再建計画について語りだすやいなや、北朝鮮初の外交官である金桂冠氏は、北朝鮮はそのような支援に一切興味がない、と言い返し、「我々は、我が国の経済基盤構築において、アメリカの援助を期待したことは一度もなく、今後もそのような取引に応じるつもりは全くない」と言った。
北朝鮮の国営メディアは5月27日、「もし北朝鮮が、検証可能で不可逆的な非核化への道を選択するならば、民間による大規模な経済支援を開始する動きがあり、北朝鮮の態度表明を今か今かと待ち受けている」というアメリカ政府高官の談話を取り上げたフォックスニュース、CBS、CNNを「権力の手先であるハックメディア」である、と報道し、再びこの件については否定的な姿勢を示した。
北朝鮮メディアは、トランプ大統領を直接非難しないよう慎重な姿勢を崩さない。
しかし、これは十分慎重に扱うべき状況と言える。北朝鮮はイデオロギー的な言葉までも持ち出して対応を強化し、「帝国主義者」の陰険な悪だくみに警告を発しつつ、社会主義体制の優位性と独自路線の価値を強調している。名指しで「アメリカ」とは言わないものの、「帝国主義者」を「アメリカ」と読み替えてみれば、北朝鮮の発言が非難している対象は明らかだ。
北朝鮮の与党寄りの新聞は、やはり同じく5月27日に、「帝国主義者は、人民を堕落させたりイデオロギー的な分裂を企てたりして社会の騒乱を助長すれば、銃弾を一発も発射せずに目標を達成することができる、と計算高く目論んでいる」という論調の社説を掲載した。
この論評は、資本主義的な生活様式を「思想と文化を蝕む毒」と酷評した上で、「このような毒に冒されることを防がなければ、独立と社会主義を守り、それぞれの国家や国民の自由な発展を成し遂げていくことは到底不可能である」と結論付けている。
By ERIC TALMADGE, Associated Press
Translated by ka28310 via Conyac