2人の“前科者”が米中間選挙に立候補 「人種差別」元保安官と「機密漏えい」元軍人
ドナルド・トランプ大統領が就任し1年が経った。アメリカでは連日トランプ大統領の言動やロシア疑惑に関する仰天ニュースが報道されており、アメリカ国民は同大統領が何をしても動じないという「麻痺」状態に突入しつつある。
しかし、2018年11月に行われる中間選挙の結果次第では、トランプ大統領の今後の政治生命が危うくなる可能性がある。現在は共和党が上下両院で過半数の議席を保っているものの、ロシア疑惑や税制改革法などアメリカ国民の信頼を失いつつある。東部コネチカット州のクイニピアック大学が実施した1月11日付アンケート調査によると、現時点で議会選挙における民主党の支持者は全体の52%、共和党支持者は35%で、民主党が17%の差をつけてリードしており、中間選挙で上下院とも民主党が過半数を得る可能性はかなり高い。
◆トランプ大統領の恩赦を受けた「前科者」元保安官
そんな中、共和党では稀な反トランプ派ジェフ・フレーク上院議員(アリゾナ州)が2018年の中間選挙に出馬せず議員を引退することを表明。民主・共和両党がフレーク氏の議席を狙う中、ジョー・アーパイオ元同州マリコパ郡保安官(85歳)が今年8月に行われる共和党予備選出馬を表明してアメリカ国民を仰天させた。
政治サイト『ポリティコ』の1月9日付記事によると、アーパイオ氏はマリコパ州保安官として在任中、不法移民などの扱いをめぐり連邦裁判所に公民権法違反で有罪判決を受けたもののこれを無視したため、法廷侮辱罪で有罪判決を受けた。しかしトランプ大統領はフレーク上院議員の反対にもかかわらず、昨年8月にトランプ大統領支持を公言するアーパイオ氏に恩赦を与えていた。アーパイオ氏は自身の罪状について否定しているが、アメリカでは恩赦を受けると同時に罪状を認めたこととなるという。つまり、いくら否定してもアーパイオ氏は「前科者」であるわけだ。
◆オバマ前大統領の恩赦を受けた「裏切り者」元軍人
アーパイオ氏の出馬表明に驚いた矢先、今度は14日、チェルシー・マニング氏(30歳)が東部メリーランド州から民主党の上院予備選出馬を表明した。チェルシー・マニングは元の名前を「ブラッドリー・マニング」という男性だったが、その後女性になったトランスジェンダーである。ABCニュースの14日付報道によると、マニング氏は2010年、米陸軍で情報分析専門家としてイラク駐屯中、国家機密を『ウィキリークス』に漏えい。2013年に懲役35年の有罪判決を受け、その後トランスジェンダーであることをカミングアウトした。
マニング氏については、一方で国家機密を漏えいした「裏切り者」、もう一方では米軍の裏を暴いたという「不正告発者」であると評価が真っ二つに分かれているが、「スパイ罪」という重罪で有罪となったことには変わりがない。2016年、オバマ前大統領から恩赦を受けてマニング氏は自由の身になった。
◆2018年中間選挙で2人が当選する可能性は
アリゾナ州は2016年の大統領選でトランプ大統領が僅差で勝ったが、中南米系やカリフォルニアなど他州からの移住者も多いため2018年中間選挙で共和党が議席を失う可能性が十分にある。
アーパイオ氏にはトランプ氏と同じ超保守派の根強い支持者層がいるが、悪名高い彼に幅広いアピール力はない。共和党としては民主党候補と争うためにも他の候補を擁立したい考えだろう。しかし、アラバマ州の特別選挙で共和党のロイ・ムーア氏が民主党のダグ・ジョーンズ氏に敗北したように、民主党としては攻撃材料が多い「悪役」アーパイオ氏が共和党候補の座を勝ち取り、民主党候補と対立することを望んでいるだろう。
一方マニング氏はコンピュータやスマホ世代の若者には人気が高いかもしれない。しかし「国の機密を漏えいし、軍人を危険にさらした」と、マニング氏をネガティブな目で見る人は多い。マニング氏が予備選で勝利した場合、民主党にとって上院選は「危険な賭け」となるはずだ。
しかしマニング氏が出馬表明したメリーランド州からは現職民主党員のベン・カーディン上院議員の出馬が確実だ。地元紙ボルチモア・サン(電子版)は、長い政治経験を誇るカーディン上院議員の「地位が危いとは特に思われていない」と報道し、マニング氏当選の可能性が低いことを示唆している。