「トランプvsバノン」暴露本出版で荒れるホワイトハウス

Gage Skidmore / flickr

 新年早々、アメリカ政界にはカテゴリー5級の嵐が吹き荒れている。

 1月3日、ニューヨーク・マガジン誌(電子版)で当初今月9日に発売開始予定だったジャーナリスト、マイケル・ウルフ氏の著作「Fire and Fury: Inside Trump White House」の内容が一部公開された。

 その中で、昨年解雇されたスティーブ・バノン前首席戦略官・上級顧問が、ドナルド・トランプ大統領の長男ドナルド・トランプ・ジュニア氏とジャレッド・クシュナー氏、そして当時トランプ陣営のトップで、現在はすでに資金洗浄容疑で拘留されているポール・マナフォート氏が2016年の選挙戦中にロシア人弁護士などを含む代表団と密会した事実について、「(国家への)背信行為」、「(トランプ・ジュニア氏とクシュナー氏がロシア代表団と密会した)25階から(トランプ氏のオフィスがある)26階まで連れて行かなかった可能性はゼロだ」と発言したと報道されたことから、トランプ大統領が激怒。

 3日付のCNNの報道によると、その後バノン氏の発言について声明を発表したトランプ大統領は、「スティーブ・バノンは私、そして私の政権と何の関係もない。(上級顧問としての)職を失ったとき、彼は正気も失った」「彼は私が(共和党から)すでに大統領選候補として選ばれた後になって雇われた人材だ」述べ、バノン氏がトランプ政権にそれほど影響力を持たなかったことを印象付けようとする発言をした。

◆トランプ政権、暴露本発売差し止めに失敗
 暴露本の内容が公表されると、トランプ政権は同書に書かれた内容が「名誉毀損」に当たるとして、出版差し止めを要求する書簡を出版社と著者に送った。しかし出版社側は暴露本の出版を5日早く前倒しすることでこれに対抗。4日深夜には首都ワシントンD.C.の書店前に、同書の発売を待つ人々の長い列ができ、販売開始後瞬く間に売り切れたという。

 同書内のバノン氏による発言を読むと、彼がトランプ氏を取り巻くクシュナー氏などと異なり、政治に関する深い洞察力を持っていることが判る。バノン氏を極右派の危険人物と見る人は多いが、彼の意見に同意してもしなくても、バノン氏はラフではあるがかなり知性的な人物であると言えよう。しかしウルフ氏に胸の内を正直に話したことで、トランプ政権の波に乗り、自分自身の政治的ビジョンを実現しようと試みたバノン氏の政治生命に最大の危機が訪れている。

◆トランプ政権の内幕を知りすぎたバノン氏 今後進む道は
 暴露本の内容が報道された後、もし内容が虚偽であったならばすぐに反論していたであろうバノン氏は、しばらく沈黙を守っていたが、7日になり声明を発表。CNNの7日付の報道によると、ウルフ氏の著書に掲載された自分自身のコメントについて対応が遅れたことを「遺憾である」とし、また「国家への背信行為という言葉はドナルド・トランプ・ジュニア氏ではなく、ポール・マナフォート氏に向けられたものだった」と弁明し、トランプ大統領への支持姿勢を改めて表明した。

 しかし、このような暴露本が出版された後で苦しい弁明をするのは「時すでに遅し」かもしれない。トランプ大統領はバノン氏を「だらしない(Sloppy)スティーブ)と連日のようにこき下ろし、ホワイトハウスから彼の影を消そうと必死だ。

 バノン氏は以前トランプ氏に最も近く、また大きな信頼を得ていたと思われる「ホワイトハウスの内情を知りすぎた人物」で、ウルフ氏の著書における彼のコメントには重みがある。また7日の声明でもバノン氏は自分の発言自体を否定しておらず、バノン氏の声明でウルフ氏の著書に一層の真実味が出てきた感がある。

 トランプ大統領の「寵愛」を失ったバノン氏が今後生き残る道は、完全にこじれたホワイトハウスとの関係修復ではなく、逆に距離を置いて自分自身の政治的位置を見つけることにあるのかもしれない。

Text by 川島 実佳