優れた交渉術? トランプ大統領の常套句「今に分かるだろう」の効果とは

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【ワシントン・AP通信】 ドナルド・トランプ大統領が確信を持っていない時、どんな質問に対しても使うお決まりの回答がある。それは「We’ll see」-「今に分かるだろう」だ。

 水曜日、トランプ大統領はこの頼りになる表現を連発した。債務上限とハリケーン・ハービー救済を同じ法案に組み入れるつもりかどうかを聞かれると、「今に分かるだろう」。挑発的な行動を強める北朝鮮に対する対応について聞かれても、「今に分かるだろう」。そして中国の国家主席との関係についても「どうなるか、今に分かるだろう」と答えた。

 トランプ大統領は、国家の安全保障や政策の実行、そして人事について、ホワイトハウスでの質問をかわす時に「今に分かるだろう」という言葉に大きく頼っている。契約締結のプロであることをしばしば謳ってきた、かつての不動産王で実業家のこの曖昧な表現は、時間を稼いだり選択の余地を残したり、どちらともつかないあやふやな状態を作り出す、マルチに使える便利な言葉だ。

「これは、予測不可能で曖昧な態度を取るという交渉術にほかならない。誰もが予想の域を超えることはできないのだ」と、前選挙運動員のサム・ナンバーグ氏は語る。「これは今も昔も、彼の常套手段だ」。

 7日の記者会見の間、トランプ大統領はイスラエルとパレスチナとの平和協定の締結に向けた取り組みに関してこの表現を使い、「我々には素晴らしいグループがいる。どうなるかは今に分かるだろう」と語った。

 大統領は今年1年を通じて、北朝鮮の核ミサイル開発計画への対応、現在のパリ協定からの脱退の検討、またNAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉の際にもこの表現を使っている。

「今に分かるだろう」がうまく使われたことで、この一年で行われた大きな人事改革の最中に、トランプ大統領が側近をクビにするために有効な手段であることが証明された。トランプタワーで開催され大きな論争を引き起こした8月中旬の記者会見では、大統領は当時の首席戦略官、スティーブ・バノンへ氏の信頼が揺らいでいないかどうかの質問を受けた。「彼は素晴らしい人物だ。その点では、実際彼は非常に不当な圧力を受けている。だが、バノン氏に何が起こるか、今に分かるだろう」と、大統領は答えた。その3日後、バノン氏は解任された。

「今に分かるだろう」は時折、懸念を引き起こすことがある。日曜日、ホワイトハウスの近くにある米国聖公会の教会から出てきたトランプ大統領は、北朝鮮を攻撃するかどうかをレポーターに質問された。「今に分かるだろう」彼はそう言い、朝鮮半島に対するアメリカの対応における国際的な懸念を相次いで招いた。

 トランプ大統領は、サスペンスを作り出すためにもこの表現を使ってきた。2月に解雇されたマイケル・フリン国家安全保障顧問の後釜を決める際、トランプ大統領は「ここ3、4日の間で考えている人物がいる。何が起こるか今に分かるだろう」と言った。大統領は最終的にH.R. マクマスター氏を選んだ。

 またある時は、この表現は単に彼が決定を先延ばしにするために役立った。1月にさかのぼると、ロシアのウラジミール・プーチン大統領との初めての会談に先立ちトランプ大統領は、経済制裁を引き合いに出すかどうかについてレポーターにはっきりとした態度を示さず、「どうなるか今に分かるだろう」と語った。現在、依然として制裁は続いている。

 トランプ大統領の伝記を執筆したマイケル・デアントニオ氏は、大統領にとって、たとえその時に確固たる考えを持っていなかったとしても、この表現を使うことで、サスペンスを吹き込むことができる、と語った。

「『今に分かるだろう』と言うことは、何か確固たる考えがあり、すべては時が経てば明らかになる、ということを暗に知らしめる手段ともいえる」と、デアントニオ氏は語った。

 トランプ大統領の元アドバイザーのマイケル・カプート氏は、この表現を使うことは、大統領が共和党内でのやりくりにおいて多くを語らないと決めたことの表れでもあるかもしれない、と語った。彼は、国策や国債の上限額の引き上げに関して民主党と合意を交わした6日、トランプ大統領がこの表現を数回使ったことを記した。

「大統領が持っている切り札を共和党のリーダーたちに見せるはずはない。彼らは何ヶ月にも渡って大統領と敵対しているのだから。この『今に分かるだろう』は、共和党員にとって状況を整える必要があるというサインだ」と、カプート氏は語った。

 もちろん、トランプ大統領はホワイトハウスに入る以前から「今に分かるだろう」を使っている。

 大統領選挙のキャンペーンの期間中、彼が最初の大統領候補討論会でどのように扱われるか、ということに対する懐疑心を表現するためにこれを使った。朝のニュース番組の『FOX and Friends』で、彼はこの討論会は「非常に不公平なシステムだ。何が起こるか、今に分かるだろう」と語った。

 2004年、リアリティーテレビ番組の『The Apprentice』に出演した時には、トランプ大統領は、テレビネットワークが現在のファーストディのメラニア・ナウス(旧姓) との結婚式の様子を撮影したがっていたと語った。2つのネットワークは、トランプ大統領が番組のトレードマーク「お前はクビだ!」ではなく、「アイ・ドゥー(はい、誓います)」と言うことろを撮りたいと望んでいたという。

「私とメラニアを除いた全員がそれを望んでいる」と、トランプ大統領は語った。「今に分かるだろう」。

 結局、フロリダ州にある彼の私有地、マー・ア・ラゴで開かれた豪華な結婚式の様子が放映されることはなかった。

By CATHERINE LUCEY AND KEN THOMAS
Translated by Conyac

Text by AP