トランプ氏とオバマ氏の言葉遣いは似ている?
著:Ronald R. Krebs(ミネソタ大学 Beverly and Richard Fink Professor in the Liberal Arts and Professor of Political Science)、Robert Ralston(ミネソタ大学 Ph D. student)
ドナルド・トランプ氏がアメリカ合衆国の大統領に就任してから6カ月が経った。
彼の政権は未だ人手不足だ。立法上の公約にも反対が多い。大統領令の行使には積極的であるが、ほとんどが効果的でなく、そうでないものはオバマ政権の法律を覆すための初期段階であったり、裁判で審議されていたりする。今のところ、トランプのリーダーシップのほとんどは彼のレトリックからくるものである。
そして一般見解では、彼のレトリックは前任者のそれとあまりにも異なったものである。
バラク・オバマ氏は大統領として雄弁であった。彼の言葉遣いは洗練されていて、彼は熟慮されたトーンで、高度で見識があって論理的な対話を行った。
ドナルド・トランプ氏はぶっきらぼうで、表現が曖昧だ。言葉遣いもシンプルだ。悪口も言うし、「戯言の達人」とも言われるほどに事実関係への留意がない。しかも彼は他人の意見を聞かないため対話にならない。
トランプ氏とオバマ氏のレトリックには確固たる差があるように思われる。しかし、話法ではなくトランプ氏が就任後1カ月に用いた言葉自体を注意深く観察すると、驚くべきことに、この二人の用いる言葉は似ていて、さらに彼ら以前の大統領とは異なる特徴がみられた。この発見と、その理由をこれから紹介しよう。
◆私たちの分析方法
私たちの分析はトランプ氏の国内の観衆に向けて行われた500ワード以上のスピーチを対象に行われた。私たちはまず、7月1日まででこれにあてはまる大統領演説をアメリカン・プレジデンシー・プロジェクトのホームページから抜粋し、230,000ワード相当の74の選挙演説と、122,000ワード以上に相当する56の大統領演説を得た。そして、トランプ氏のこれら2種類のスピーチ同士の比較、及び、最近出版された本のために私たちのうちの一人が同様に集めた戦後の大統領演説との比較を行った。
私たちはディクション(Diction)と呼ばれる電子コンテンツを分析する特殊なプログラムを用いてこれらのスピーチを分析した。ディクションは政治的な演説に特化した33の辞典を内蔵しており、文書から特定の辞書に載っている言葉を検索し、そのスピーチの最も代表的な500ワードのサンプルに用いられるであろう言葉を算出する。
◆オバマ氏・トランプ氏とその他の大統領の比較
オバマ氏とトランプ氏が類似し、他の大統領と異なっている点は大きく二つある。
第一に、彼らのレトリックはより自己言及的である。つまり、彼らはより一人称を用いる。オバマ氏のレトリックは他の大統領より自己言及が69%も多いし、トランプ氏に関してはそのまた20%多い。
トランプ氏は、オバマ氏の次に一人称を多く用いたジェラルド・フォード氏よりも約50%も多く一人称を用いている。トランプのレトリックは、戦後の大統領の平均よりも倍自己言及的である。
(図1)自己言及的なレトリック
トランプ大統領とオバマ大統領は前任者12人よりも多く一人称(“I”や“me”等)を用いる。左の目盛の数値はその大統領の代表的なスピーチ500ワードに用いられるであろう自己言及的な言葉の数である。灰色の棒線が挙げられている大統領全体の平均を表している。
第二に、トランプ氏とオバマ氏は語調の強さにも特徴をもつ。ディクションの辞書は行動を求める言葉(“must”や“need”等)や「自信や完全性を示す」言葉を抽出することもできる。オバマ氏のレトリックは他の大統領に比べて45%も語調が強い。また、トランプ氏のレトリックはオバマ氏よりも断定的で、その他の大統領はこのように平均を大きく上回ることはない。
(図2)強い語調
トランプ大統領とオバマ大統領は「しなければならない(must)」や「必要だ(need)」などの言葉を前任者12人よりも多く用いている。左の目盛の数値はその大統領の代表的なスピーチ500ワードに用いられるであろう語調が強い言葉の数である。灰色の棒線が挙げられている大統領全体の平均を表している。
オバマ氏とトランプ氏のレトリックは、政治の原動力は三権分立でも政党でも官僚制でもなく、大統領の意思であるということを示唆している。自己言及的であることは強いリーダーシップと政権がその人を中心に動くというイメージを植え付ける。また、強い語調は大統領が様々な障害を乗り越える自信を持っていることを表す。
違いは沢山あるものの、オバマ氏とトランプ氏は共に一貫して自分たちを国が抱える問題への解決策として売り出した。共和党全国大会の推薦を受諾するスピーチの中で、トランプ氏は「私以上にシステムをよく知っている人はいない。だからこそ、私だけが問題を解決できる」と確約した。さらに彼はアメリカ国民が彼を信用すべき理由としてしばしば彼の伝記を参照した。皮肉にも、トランプ氏にまったくの失敗者でリーダーとして弱いという烙印を押されているオバマ氏はこの面で彼に大いに類似する。オバマ氏も、私的な話をアメリカ人が彼を信用すべき理由として頻繁に示した。「私が変化をもたらすのです。それが私の目標であり、計画です」と2009年1月にワシントンポスト紙に伝えたように、オバマ氏は自身を国家的な転換の主役としてキャンペーンした。彼は他の政府関係者を「優秀な機械」と捉えていた。
◆切望される強いリーダー
大統領のレトリックに関する電子的な分析はパターンを示すが、それを説明することはできない。だが、オバマ氏とトランプ氏が同じようなレトリックを用いた背景には同じ理由があると推測できる。広範囲の有権者は政界のこう着状態を打破し、国が抱える問題を解決できるだけの強いリーダーを欲しているのだ。
特に9・11以来、アメリカ人の価値観は集中化したが、アメリカの政治はより派閥化し、分極化が進んでいる。この派閥化が政界でこう着を生み出し、議会でも野党の妨害が目立つようになった。結果的に国民は議会にいら立ちを覚え、彼らの政府への信頼感は急落した。だからこそ、ワシントンD.C.の障害を解消し、議会に行動を起こすよう促すような、イニシアチブをとれる大統領への期待が高まっていた。
2007年段階では、「誠実さ」が、有権者が次の大統領を決める際に最も気にしていたことで、2位の「リーダーシップと強さ」とは大きな差があった。だが、2012年にはアメリカの有権者は「価値観が同じである」ことが最も重要視され、2016年には「強いリーダー」が支持政党に関係なく圧倒的な首位で、4年前に比べて2倍も重要度が上がった。
オバマ氏とトランプ氏の強くて自己言及的なレトリック(人によっては権威主義的というかもしれないが)は強いリーダーシップをもった大統領への需要にあうように作られたように見える。このリンク先のチャートが示すように、彼らのレトリックが「協力的」で「結果主義」なレトリックが減っているという長期的な傾向をなぞっていることも、各党の間での協力の少なさと業績の低さを鑑みると驚きではない。皮肉にも、「満足」を示すレトリックはそれに伴って増加傾向にある。もしかしたら、良い知らせが少ない分、大統領としてすべてが順調にいっていると宣言する動機があるのかもしれない。
もちろん、ドナルド・トランプ氏の独特なレトリックが寄与しているところもある。上図はトランプ氏がキャンペーン中よりも就任してからのほうが自己言及的で断定的な発言が増えていることを示している。もしかしたら、彼はただ単にキャンペーン中は自制していただけなのかもしれない。ホワイトハウス入りを果たした今、彼はより彼らしく振舞える。トランプ大統領はしがらみから解放されたトランプ氏なのかもしれない。
しかしながら、トランプ大統領はやや極端であるが最近の政治の潮流を表している。オバマ氏の自己中心的で自身に満ち溢れていながら高邁なスピーチは、後任者の自己中心的で自信過剰でうぬぼれたツイートへと続いた。カール・マルクス氏は正しかった。歴史は、一回目は悲劇として、二回目は茶番として繰り返される。
とにもかくにも、我々はこのような権威主義的なレトリックに慣れる必要がある。このようなレトリックは暫く流行るだろうから。
This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by AnthonyTG