米中覇権争いに比べれば北朝鮮問題は「余興」 バノン氏の対中国経済戦争観

Gage Skidmore / Flickr

【ワシントン・AP通信】 ホワイトハウスの旧アドバイザー、スティーブ・バノン氏は、恐らくアメリカの今世紀を象徴する、勢力拡大を続ける中国との問題について熟考中だ。だが、彼の「経済戦争」に対する見解は、主流から大きく外れるという結果をもたらした。

 バノン氏は、彼の壮大な計画に関するインタビューで、この先25年から30年の間で誰が世界的な最高権力者になるかという問題にあたり、アメリカは北京を「厳重に注視する」必要があると語った。8月中旬までホワイトハウスでトランプ大統領の直近で働いていたブライトバートニュースの会長は、アメリカン・プロスペクト誌に対し「中国との経済戦争がすべてだ」と語った。

 何十年もの間、あらゆるアメリカの経済学者、軍事専門家や政策の制定者は、現在の経済大国であるアメリカと、間もなく最大の経済大国となるであろう中国が、どのようにお互いの貿易や安保に関する見解の違いを乗り越えていくか、という問題に取り組んできた。だが、権威を持った人の中で、バノン氏のように、いわば救世主のような情熱とでも言うべき世界観を伴った戦略を導入した者はこれまでにはいなかった。

 中国との関係においてより慎重なアプローチを支持する穏健派は、「経済戦争は全員が傷つく」と、正当な理由とともに反論している。

「スティーブ・バノン氏の見解はあまりにも単純で傲慢だ」と、シアトルの貿易弁護士、ウィリアム・ペリー氏は語る。「こうした話はアメリカを大きな問題に巻き込む恐れがある。彼の見解は、世界最大の市場だと主張するアメリカに対して全員がペコペコと頭を下げなければならない、という発想のもとに作られたものだ」。

 バノン氏の声明には、中国との間での大きな貿易赤字を軽減し、アメリカの製造関連の雇用を創出するというトランプ大統領自身の心情が反映されている。また一方では、中国やそのほかの国々との政策に関する問題において、アメリカ政府内で衝突が起きていることの表れでもある。

 バノン氏は、中国に対する貿易規制に反対する国務・国防の両省内のライバルを抹消するということに対して遠慮するということはまったくなかった。また、北朝鮮への威嚇を続けるトランプ大統領の発言に反して、核の問題がこう着状態にある中、軍事的解決はあり得ない、と発言している。

 バノン氏はまた、より重大な米中関係への取り組みと比べて、北朝鮮を注視することを「余興」と位置付けている。

 これまでのアメリカ政府は、30年以上前に市場の解放・改革がなされて以来、共和党・民主党ともに中国と協力してきた。例えばクリントン大統領は、2001年に中国が世界貿易機関(WTO)へ参入するためのサポートを行なった。

 だが、中国経済と軍事力が強まるにつれ、経済成長が進む他の国々と同様に市場を解放し、WTOのルールに乗っとった貿易をして欲しいという希望は儚く消えかかっている。アメリカの中国に対する見解がかたくななものにしてしまったのだ。

 アメリカの消費者が安価な中国産の製品の恩恵を受けてきた一方で、こうした輸入製品はアメリカの貿易赤字を拡大させてしまった。例えば2016年の中国との貿易赤字は3470億ドル(約38兆円)にも及んでいるが、これは世界全体で見たアメリカの貿易赤字の半分近くを占めている。

 マサチューセッツ工科大学(MIT)、チューリッヒ大学、カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究者らによると、1999年から2011年の間で、中国との輸入競争で240万もの雇用が失われたことが明らかになったという。これはアメリカ国民にとって最も大きな懸念であり、またバノン氏に促されたトランプ大統領が、肉体労働者の投票を得るべく選挙活動を行うきっかけにもなった。

 中国との経済戦争に関してバロン氏はこのように語っているー「アメリカはこの問題を厳重に注視する必要がある。このままアメリカが負け続ければ、5年、最大で10年後には、回復することができなくなる変曲点に到達するだろう」。

 こうした将来を悲観する声はトランプ大統領の耳に届いているだろう。トランプ政権は最近、これまでにほとんど使われることがなかった貿易交渉の材料を引っ張り出して手続きを始めているが、これは中国からの鉄やアルミの輸入規制に繋がる可能性がある。トランプ大統領は、技術や知的財産権の侵害の疑いで中国を調査していると発表している。

 だがバノン氏は首席戦略官の任期中、国家安全保障担当補佐官を務めるH.R. マクマスター氏など、自身のライバルとも言える人材に取り囲まれていた。トランプ大統領自身も、大統領選挙の前から一緒だったバノン氏に対する信頼を強調する機会を逃している。

 ホワイトハウスのスポークスマンは、バノン氏のアメリカン・プロスペクト誌とのインタビューについて、「バノン氏のコメントは、彼自身の独自の見解だ」とだけ語った。

 バノン氏と面会した政府外の人物の情報によると、バノン氏は辞任前に政府の様々な部門に対し、中国に関する膨大な量の関係書類の作成を依頼したという。これは恐らく、トランプ大統領の貿易策のためだと思われる。8月17日に行われたトランプ大統領の会見は北京からの大きな反感を生み、その矛先はバノン氏の意見にまで及んだ。

 中国外務省のスポークスマンを務める華春瑩(か・しゅんえい)氏は、「中国とアメリカの関係の着実な発展」を求めている。

 華氏は北京で「貿易戦争に勝者は存在し得ない」とレポーターに語った。

 中国は何年もの間、海外との競争において輸出業者が利益を得られるように自国の通貨の流通を操作してきた。海外企業に対しては、中国の広大な市場への参入を認める代わりに技術提供を要求し、海外企業の知的財産の盗用が横行した。中国の工場では政府からの補助金や低金利ローンによる優遇がなされ、鉄やアルミ、その他の製品が大量生産されたことで低価格化が全世界に広まり、アメリカやその他の国々の企業が競争力を失うきっかけとなった。

 だが、ワシントンはこうした違反を見逃すことはしなかった。例えばオバマ政権は、16回中国をWTOに提訴した。アメリカは中国からの鉄の輸入をほとんど完全に遮断した。ピーターソン国際経済研究所(PIEE)は2017年の報告書で、中国からの輸入品のうち、9%以上がアメリカ合衆国の貿易規制に直面しており、輸入品全体で見ると4%以下だという結果を目の当たりにした。

 そして中国は数年前、自国の通貨流通の操作を中止した。

 バノン氏のコメントは、さらに厳しい基準を提唱する可能性を示唆している。大統領選挙の活動中、中国からの仕返しを予想しつつも、トランプ大統領は中国からの輸入品に対して45%という税率を課すことをほのめかした。

 アメリカの財務省、及び世界銀行の元当局者であり、現在はブルッキングス研究所に勤務するデビッド・ダラー氏は、「彼らに重い税金を課せば屈服させられるだろう、という考え方は明らかに間違っている」と語る。

By MATTHEW PENNINGTON and PAUL WISEMAN
Translated by Conyac

Text by AP

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